すれ違い 前編4


半年前、別れてからも道明寺、忙しいのにメールをくれたり、電話をくれたりしてくれて、あたしが就職活動してるってポロって言ってしまってから

「金の心配はすんな!英徳大学に行くか、NYに来て勉強しろ」

ってしつこい位に言ってきて
ホント毎日のように煩くって…
付き合っていた頃より頻繁にかけてくるなんて、何かちょっと変な気がしたけど

でもさ、甘えられる訳ないじゃない
あたしと道明寺はもう関係ないんだし
だいだいくらかかると思ってんのよ
ただでさえド貧乏なんだから、そんな金額返せる訳ないし

この就職難の時代にようやく就職が決まってホッとした矢先に今度は魔女…道明寺のお母さんから電話が

見知らぬ電話番号だったから、恐る恐る出てみると、やっぱり恐ろしい人からで…ものすごくビックリした
しかも最初から嫌味だったしね

『あなたと司さんが関係なくなったと聞いて、本当に安心致しました』

わざわざそんな事言う為に、あたしなんかに電話しなくてもって正直思ったんだけど

『せいせい致しましたが、私も不本意ながらあなたに助けられた事があります。ここからはビジネスです。私があなたの将来を手助けします。どこに行っても恥ずかしくない一流の教養を私の傍で身につけて頂きます。どうなさるかは牧野さん、あなた次第ですが』

何を言ってるの?って、頭がパニックになって、まったく言葉が出なかった

『私の傍で学べば、あなたのような庶民の小娘でも認められるでしょう。きっと花沢ご夫妻も。1週間後にまた連絡致します。返事はその時に』

魔女の『花沢ご夫妻も』っていう一言で魔法をかけられた感じ
1週間なんていらない
その場で宜しくお願いしますって返事をした

堂々と花沢類に好きだって言えるようになりたいから
自分に自信をつけて、必ず花沢類の所に行く
そうその時、覚悟を決めたんだよ



コンコン

「牧野を連れてきました」
「どうぞ」

はぁ~緊張する
道明寺のお母さんってめちゃくちゃ恐いし…

「お久しぶりです。今回は私の為に有難うございます」

ヒャ~
相変わらず冷たい目線で…

「ビジネスですから。お掛けなさい。西田、資料を」

な、なんなんだ、この分厚い資料は…

「時間がありませんので、手短に話します。重要な事はすべてこの資料に書いてありますから、後で必ず目を通すように」
「は、はい」
「まずは高校でのあなたの成績を調べさせて頂きました。さすがに外部受験で英徳に入っただけの事はありますね。この成績なら大丈夫でしょう。大学に入るまでの半年間は、語学を集中的に学んで、大学は3年で卒業してもらいます」

へっ?3年って…
スキップしろと…

「おい、ババァ!NYに来たばっかりで、いきなり言っても出来るかなんて解んなねぇ~だろ」
「司さん、あなたはもう少し頑張らないと牧野さんと一緒に卒業に成りかねませんよ。司さんより牧野さんの方が、成績が優秀なんですから」

プッ!
道明寺、高校の時、ろくに授業出てなかったからね

「チッ!牧野、笑ってんじゃねぇ~よ」
「大学卒業後は大学院に入り、MBAを取得して頂きます。その後は牧野さん、ご自由に」

魔女のカリキュラム的には4年半でって事だよね
よし!

「はい、解りました。精一杯努力します」
「私が手放したくなくなるような人材におなりなさい。あなたなら出来るはずですから。では」

うぉ~魔女からそんな言葉を言われるなんて思ってもみなかったよ

「おい、牧野、お前大丈夫なのか?」
「フフッ、道明寺はあたしの心配してる場合じゃないんじゃない?あっ、それともあたしと一緒に卒業したいとか」
「ちょっとババァに褒められた位で図に乗ってんじゃねぇ~ぞ!絶対先に卒業してやるからな!」
「はいはい、解ったから。ねぇ~道明寺も行かなきゃマズいんじゃない?さっきから秘書の人ヤキモキしてるよ」
「チッ!解ったよ。んじゃ~行くから、牧野は今日一日ゆっくりしろよ。夕飯は一緒に食えるように帰って来るから」
「うん、ありがとう、道明寺」


ゆっくりしろって言われてもね、この分厚い資料読まなきゃならないし…

「牧野様、お部屋へご案内致します」
「あ、ありがとう」

はぁ~
まずはこの迷路みたいな邸の中を覚えなきゃ
自分の部屋に行くにも迷いそうだよ

「こちらのお部屋になります。後ほどお飲み物をお持ち致します」
「あっ、はい。ありがとうございます」

ウゲッ!
な、なんなの、この部屋は…

ただ勉強して、寝るだけなのにこんな何部屋もいらないでしょ?
勉強部屋に寝室…そしてなんでリビング?
相変わらずトイレはやたらと広いし
うわぁ~
お風呂はジャグジーだ!
なんて贅沢な…さすがは道明寺邸

と、とにかく少し落ち着いて、荷物を片付けてから資料を読まないと

はぁ~
なんなの…クローゼットにあるこの服は!
すっごい数なんだけど…
それもみんな高そうな服ばかり

コンコン

「あっ、はい!どうぞ」
「牧野様、お茶をお持ち致しました」
「ありがとう。あの…」
「はい、どうかなさいましたか?」
「いいえ、ただあのクローゼットにある服なんですけど…」
「あっ、はい、椿お嬢様より牧野様へとの事でしたので、こちらで先に掛けさせて頂きました」

椿お姉さんがこんなに沢山…

「あ、ありがとう。椿お姉さんは今どこに?」
「今日、夕食のお時間にはこちらへお見えになるそうです」

良かった!その時にお礼を言わなきゃ

「では、何かございましたら、こちらよりお呼び下さい」
「はい、ありがとうございます」

道明寺のお母さん、椿お姉さん、そして道明寺
今は何も関係がないあたしにこんなに良くしてくれて…
恩返しは…あたしが頑張る事だよね!