代償の果てに③-2


道明寺邸に到着すると同時に、道明寺の個人携帯が鳴る

「牧野、お前は来なくていい。車の用意をして待ってろ」

そう言うと、滋さんと共に邸へ入って行った

『おう、類、なんだ?』
『明日、牧野貸して』
『はぁ?なに言ってんだ、類』
『フランスに帰るから見送りしてくれてもいいでしょ?』

あ~この間の商談せいか
あの時はまんまとやられたな

『そうか、もう帰るのか。悪り~な、明日は忙しくって行けねぇ~や』
『別に司に来てなんて言ってないよ。牧野だけでいいから』

フッ
相変わらず牧野か…

『フン!俺様が忙しいんだ、牧野も忙しいに決まってんだろ』
『司には他にも沢山秘書がしるでしょ。じゃ、明日12時の便だから』

なっ、チッ!
類のヤツ
勝手に切りやがって

「類君から?」
「あぁ」
「ねぇ~司、いつまでこんな状態続けるの?いくら滋ちゃんでも、もうそろそろ限界かなぁ~って…あっ、ちょっと司!」

まったく
うるせ~ヤツだな
滋とは結婚すんだから、別にいいだろ

「タマ!邸に届いてる書類はどこだ!」
「そんな大声出さなくてもちゃんと聞こえてますよ。まったくいつになったら」
「いいから早く出せ!マンションに帰る」
「はいはい、お好きなようになさいませ」

チッ!
なんで俺様の周りは、うるさい女ばかりいるんだ

バン!

「牧野、帰るぞ。明日のスケジュールはどうなってる?」
「あっ、はい。一日社内に缶詰状態になります。来客予定が午前中に三件、午後は八件。途中に会議が二件以上です」
「そうか解った」

こんな状態で、牧野を行かせられる訳ねぇ~だろ、類


「牧野、田中を呼べ」
「はい」

道明寺の第二秘書、田中さん
ベテランで未熟なあたしをいつも支えてくれている
温厚な顔立ちと同様、優しくて温かい人

「支社長、お呼びでしょうか」
「今日、牧野は俺の代わりに外出してもらう。夕方まで戻らないから、それまで田中が仕切れ」

エッ!?
外出って…

「はい、畏まりました」
「牧野、下に車が用意してある。行けば解る」
「支社長…」
「なにグズグズしてんだ、早く行け」

ホントに急な事で、田中さんと手短に打合せを済ませる

「大丈夫ですよ、牧野さん。心配しないで、気をつけて行ってらっしゃい」
「はい、お願い致します」

すべてを把握している田中さんだから、何も心配する事はない
どちらかというと、あたしが第二秘書の方がいいんじゃないかと思っている位だから


地下駐車場に降り、車に乗り込む
行き先は…おそらく

道明寺は俺の代わりにと言っていたという事は、プライベートではない
あくまで仕事だという事
フフッ
道明寺に言れわなくても、どちらにしろ仮面は外せないんだから

どれ位で日本に戻って来るのかな
離れていれば、こんな風に胸がドキドキする事もないよね

鞄からクロスのストラップがついた携帯を取り出す
五年前
日本を離れてから、ずっと電源を落としたままの携帯
フフッ、もう使う事はないのに、いつも充電して…
何となく、花沢類と繋がっている気がするから…

でも五年前の携帯って使えるのかな?
どうせ誰からも掛かって来ないし

ピーピッ!

ヘェ~使えるみたい
ずごいね!

「牧野様、到着致しました。フランス行の12時の便でございます。私はこちらでお待ちしておりますので」
「あっ、はい。ありがとうございます」

っていうか
ヤダ…後20分しかない

プルルル…

もう!
こんな時に電話なんて

ピッ!

『はい、牧野です』
『やっと繋がったね、牧野』


エッ!?
花沢類?

『まだつけていてくれたんだ、そのストラップ』

ヘッ!?
ス、ストラップ?

あっ、この携帯…
ど、どこにいるの、花沢……類…

「ありがと、牧野」

お願いだから
もうそういう事しないで、花沢類…
ただでさえ、あなたに会う度にドキドキしているのに…

「花沢専務、放して下さい」
「あれ?牧野、プライベートで来てくれたんじゃないの」
「支社長よりお見送りに行くようにと…西門様や美作部長はお見えではないのですか?」

司、ホント意地悪だよね
でも牧野を寄越してくれただけても
クククッ、司も大人になったんじゃない
それだけ余裕があるって事かもしれないけど

「今日帰るとは言ったけど、別に来てとは言ってないし。牧野が来てくれればいいから」
「…日本には当分の間戻れそうにないみたいですね、フランスでのご活躍を聞いております」

そんなに俺にいて欲しくないの、牧野

「どうかな、牧野に会いたいから出来る限り早く戻るつもりだけど」
「花沢専務、もうそろそろお時間のようですが」

クククッ、ことごとく話をすり替えるね
でも覚悟してて、牧野
次に戻って来た時は、本気で掴まえるから

チュッ!

「行って来る。じゃ~ね」

突然キスした時の、その驚いた顔は昔と変わらないね、クククッ
牧野があのストラップを持っていてくれて、確信したよ
五年前と変わらず、俺を想っていてくれてるってね