大切な物 前編②


~2年前 類視点~

英徳高校卒業式…

英徳大学に通っていても牧野に会えるからと、暇さえあれば俺は非常階段にいた
卒業式の日も式が終わればきっと牧野はここに来ると思い、この時期にしては暖かい日差しの中、日向ぼっこをして待っていた

「花沢類、起きて。ねぇ~花沢類」
「ふぁ~牧野、おめでと」
「ありがと!って花沢類、まだそんなに暖かい季節じゃないんだから、こんなところで寝てたら風邪引いちゃうよ」
「あい」

牧野は持っていた膝掛けを俺にかけてくれた

「ねぇ~花沢類…」
「ん?」
「ううん、何でもない!あっ!もうこんな時間!パパとママ、進に無事卒業できた事を報告しなきゃ!それじゃ~ね」

それから向日葵のような笑顔で微笑むと、慌しくバタバタと階段を駆け下りて行った

「プッ!ほんと牧野はいつも忙しそう…クククッ!でもまたそこが可愛いんだけどね」

司が『4年後に迎えに行く』宣言から1年か…
プロムでは

『幸せにしてあげる』

なんて宣戦布告して元気一杯だったけど、実際に司がNYに行ってから、みんなの前では平気な顔をしてたけど、やはり司からは仕事と学業で、なかなか電話もメールもない状態で非常階段に来てはよく泣いてたっけ…

フフッ
俺のシャツをハンカチ代わりにして…
牧野が寂しくならないように
牧野が笑顔でいられるように
暇さえあれば牧野家に行ったり、バイトが終わる時間に迎えに行ったり…
ほんとはただ牧野に会いたかったからなんだけど

ピピピピッ
ピピピピッ…

もう誰…折角牧野の事、考えてたのに…

ピッ!

「あきら、何?」
「類!大変だ!!!」
「何が?」
「ま、牧野が…」
「えっ、牧野がどうしたの?」
「いなくなった…とにかく牧野の家に早く来い!!!」

急いで牧野の家に行くと、総二郎・あきら、三条・司の元婚約者、牧野の友達がすでに来ていた

「どういう事?」

牧野の家に入ると、家財道具が一切なく、床の上には司から送られてきたプロム用のドレスが入っている箱だけが、ポツンと置かれてあった

「プロムの支度があるから牧野先輩を迎えに来たんです。そしたら…」

三条が涙を流しながら手紙を差し出した

「手紙が2通置いてあって、1通は道明寺さん宛てで、これはみんなへの手紙です」

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優紀、桜子、滋さん
西門さん、美作さん
そして花沢類

本当にごめんなさい
あたしは…どうしても
どうしても道明寺とは一緒にいられません
あたしのわがままを許して下さい
みんなに出会えた事
心から感謝しています
ありがとう!

牧野つくし
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~司視点~

NYに来てから学業の他、ババァが仕事で振り回し、殆ど寝る暇もない位クソ忙しいせいで

牧野とは電話もメールでさえもなかなか連絡が取れない
夏休みも冬休みも貰えず、牧野の卒業のプロムだけは絶対に日本へ行くとババァに宣言し、がむしゃらに色々覚えていった…牧野との将来の為に

プロムに向かう日、NYを発つ前に牧野に

「今から日本に向かう」

と短いメールを送り、自家用ジェットに乗り込んだ
牧野からメールの返信がないのに少々苛立ったが、今までの疲れからかおそらくジェットに乗って10分程で眠り込み、起されたのは日本に着く5分前だった

秘書の田中から

「お疲れのようでしたので、電源を切っておりました」

と携帯を渡された

ったく余計な事を!
牧野からメールが来てるかもしれないのに!
と頭で呟くと電源を入れ…

ピピピピッ!
ピピピピッ!

「うぉ!!!」

携帯を落としそうになりながら、着信相手を確かめずに出る

「牧野か?」
「やっと出た…司。俺、あきら」
「なんだ、あきらかよ…」
「司、落ち着いて聞いてくれ」
「あぁ?何だよ!!牧野と早く連絡が取りたいんだから、早くしてくれ!」
「…」
「何黙ってるんだよ!切るぞ!!」
「牧野が…いなくなった」
「あ?あきら何言ってんだ?」
「とにかく早く牧野の家に来てくれ!見れば解る…」


牧野の家に着き中に入る
何が何だか、訳が解らねぇ~

「何で何にもないんだ?一体どうなってんだよ!!!おまえらに牧野を頼むって言ったじゃねぇか!!!」

俺は類に掴みかかると、あきらが

「落ち着け!」

と間に入る
三条が俺に手紙を差し出した

「牧野先輩から道明寺さん宛ての手紙です」

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道明寺へ

1年前
『4年後に迎えに行く』
と言ってくれた時
本当にとても嬉しかったし
道明寺の事が本気で好きだった

でもね、ごめんなさい…

どうしてもあなたと一緒にはいられない
本当はきちんと顔を見て
話をしなくちゃいけないんだけど
あたしにはあなたを前に言う勇気がない…
本当の事も言えない…

ごめんなさい
あたしと別れて下さい
そして忘れて下さい
さようなら

牧野つくし
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俺は手紙を握り締めると

「ババァの仕業か…」

直ぐにNYのババァに電話をかけた

「てめぇ~今度は牧野に何をした!!!」
「司さん、いきなり何なんです!もう少し落ち着いたらいかがですか?」
「でめぇ~しかいねぇ~牧野をどこに隠した!!!」
「牧野さんの事は秘書の田中から報告が来ています」
「やっぱりか!!!」
「何を勘違いしているんです?私は田中から牧野さんがいなくなったと報告を受けただけです」
「とぼけやがって!」
「とにかく私は牧野さんとは一切関わっておりません。牧野さんをきちんと捕まえておけなかった司さんがいけないのでは?」
「…」
「このままじゃ、NYに帰らないと言いかねないでしょうから私が牧野さんについて全て調べます。宜しいですね?明日の朝9時に連絡を入れます」

その日は誰もがプロムに出る気にもならず、そのまま邸に戻って来た
牧野の友達が牧野の家族と連絡を取ろうとしたが、すでに電話・携帯ともに解約されていて
牧野の親が住んでいる家にも行ってみたが、牧野の家と同じで何一つ残されてなかった
双方の大家に聞いても、行き先は全く解らなかった
ババァからの連絡を誰も眠る事が出来ずにただ待っていた

朝9時ジャスト

司の携帯がなると同時に

「牧野はどこにいる?」
「司さん、出るなり何なんです?」
「いいから早く言え!!!」
「はぁ~まずは結論から言います」
「…」
「牧野さんは見つかりませんでした」
「本当に捜したのか!それともやぱり…」
「人の話をきちんと聞きなさい!」
「…早く言え」
「まずは一番簡単な戸籍関係を調べてみましたが、どうやら意図的に操作され、調べる事すら出来ませんでした。牧野さんのご両親、弟さんについても同じです。何か大きな力で阻止しているようです。牧野さんに関しては以上です。さあ、司さんは今から1時間後に日本を出国するように!では」

俺は類達にババアとの会話の内容を伝えると、SPに取り押さえられるようにジェットに乗せられ、日本を後にした