大切な物 後編②


ケインズ会長は直ぐに、進のお願いを叶えてくれてた
根っからの貧乏性を考慮し、今パパとママは大阪にあるケインズ財閥の会社の寮で住み込みで働いている
月に一度は会えるようにパパとママがNYに来たり、あたし達が日本に行ったりしている

進はNYに来て
プッ!
言葉の壁に悩まされ、学校が始まるまでの半年間、みっちり猛特訓!!
あたしでもフランス語、会話程度のイタリア語しか話せないのに、進ったら今じゃ、フランス語、イタリア語、中国語までペラペラになっちゃってる
少しでも早くケインズ会長に恩返しがしたいと、本当に頑張っているんだよね

そしてあたしは
NYに来て半年間、ケインズ会長の秘書見習いとして働き、学校が始まっても両立して頑張っている
今の目標は大学をスキップして卒業し、MBAを取得する事!

毎日が流れるように過ぎていく中で、いつも夜になるとあたしの『大切な物』を握りしめ、月を見上げては思い出に浸っていた

そしてあなた会いたいと

その様子を見て、ケインズ会長が心配そうに聞いてきた事があったっけ
でも深く聞く事もなく、まるで

『大丈夫だよ』

と言ってくれているかのように微笑んでくれた
その頃からかな
あたしも進も外ではケインズ会長を

『お父様』

って呼んではいたけど、自然にどこでも

『お父様』

って言えるようになったのは

お父様は本当に不思議な人で
うわぁ~やっぱり財閥の会長!!
って思う時もあれば、子供のように無邪気の時もある
そうまさに今日も大事な調印があるからあたしの代わりに

『大切な物』

を持って行きたいなんて、ちょっとウルウルとした目でお願いしてきて、そんなんで本当に大丈夫なのかなって感じ
ちょっと寂しいけど、仕方がない
明日上手くいくように願いを込めて
『大切な物』を握りしめ、もう一度バルコニーに出る

次の日の朝

「絶対に上手くいくように願いを込めたから大丈夫よ!!」

とお父様に『大切な物』を渡す

「ありがとう!きっと大切な人にも届くと思うよ、ツクシの想いが」

あたしが不思議な顔をしていると

「ハハハッ!行ってくるよ」

といつものように、あたしの頬にキスをして行ってしまった


調印が上手くいき、上機嫌で帰って来たお父様に
『来客のお出迎え』を頼まれた
来客がいらしたと連絡が来て玄関ホールに行くと、一人きりにされ、玄関の扉が開く…

「エッ?」

あたしは駆け出していた…

あたしは
夢をみているのかな?
大好きな人の腕の中にいるなんて・・・
あなたに会いたくて
会いたくて・・・

「花沢類・・・」

そう言って顔を上げると、花沢類は天使の微笑みで

「牧野、会いたかった…」

とあたしの涙を唇で拭い、もう一度あたしの目を見て唇にキスをした・・・
長く長く慈しむように・・・

ウウンッ!
(エッ?)
ゴホッ!ゴホッ!
(はぁ?)

「お楽しみのとこ悪いんだが・・・」

・・・うわぁ!!!
思わず花沢類を突き飛ばし

「お、お父様!」
「ねぇちゃん、顔真っ赤」
「す、進!」
「牧野、相変わらず乱暴」

ハッ!

「花沢類、大丈夫?ごめんね」
「牧野、今度は真っ青だよ、クククッ」

そう言うと、軽くチュッとキスをした

「ケインズ会長、本日はお招き頂きありがとうございます」
「ハハハハッ」

とウインクする

「進、元気だったか?」
「類さん!」
「パパとママは元気?」
「はい!・・・でもあの・・・類さん」
「ん?」
「ねぇちゃん、金魚になってますけど・・・」

真っ赤な顔をして、口をパクパクしている牧野を見て、みんなで大爆笑!!
それを見た牧野は、今度はプーと頬を膨らませまるでフグのよう

「ハハハハッ!ツクシ、いつまでも百面相してないでお茶でも飲もう!」

「お父様、いつからこの計画を?」
「ハハハハッ!最初からだよ」
「エッ?」
「フフッ、ただいつ実行するか様子を見ていたけどね」
「もう!!」
「ルイ君、この演出喜んでもらえたかな?」
「はい、ありがとうございます」
「ん、じゃ~邪魔者は退散しますか・・・ルイ君、今日は泊っていきなさい」

あたしに解らない様、ウインクをして部屋に戻っていった

「ねぇ~牧野の部屋どこ?」
「どうして?」
「見たいから」

類をあたしの部屋に案内すると、スタスタとベッドにいき

「ここで寝る」

と枕を抱えて横になってしまった

「花沢類!ダメだよ!部屋、別に用意するから」

ベッドに近づいたあたしの腕を掴み、抱き寄せた

「何もしないから・・・今日は傍にいて欲しい」
「う、うん」
「でも・・・」
「ん?」
「キスはする」
「エッ?」

最初は啄ばむように…
そして深い深いキス…

ピピピピッ!
ピピピピッ!



牧野が肩を叩く

ピピピピッ!
ピピピピッ!



バシッ!バシッ!バシッ!
仕方なしに唇を離す

「は、花沢類の携帯だよ、早く出ないと!」
「…」

ピッ!

「類、出るのおせ~よ!」
「あきら、何?」
「随分不機嫌だな」
「いいから早くして」
「おう!牧野が見つかったんだよ!!!」
「そう」
「そうって・・・お前嬉しくないのか?」
「…」
「類、今NYにいんだよな!牧野もNYにいるぞ」
「知ってるよ」
「あ?」
「隣にいる」
「ドン!うわぁ!滋、何すんだよ!!」

牧野に携帯を渡す

「つくし!」
「滋さん・・・」
「キャ~!まだ何も話してない!!!」
「牧野先輩!」
「桜子・・・」
「アッ!ちょっと!!!」
「牧野!」
「西門さん…」
「今、優紀ちゃんとかわるから」
「つくし…」
「優紀…」

二人して泣きぎゃくり、まったく会話になっていないのを見計らって、西門さんが…そして花沢類が携帯を取る

「ごめん…牧野、今いっぱいいっぱいで話せない」
「解ってる…落ち着いたら連絡くれ」

そう言って切ると牧野を抱きしめた…


~Tsukasa~

ケインズ財閥と花沢物産の調印の書類を秘書から受け取る時、小さなメモを渡された

~~~~~~~~~
ケインズ会長の養女
牧野つくし
現名前
ツクシ・ケインズ
~~~~~~~~~

ケインズ会長、類に気付かれないようにメモを握り潰した
何事もないように振舞い、きちんとした情報を得るまでは…と思っていると、ケインズ会長が何かを握り、胸に当てそっとそれを机の上に置いた
俺にはまったく意味の解らない物だったが『娘が大切な人に貰ってた物』だと…
俺が否定したかった疑問点が頭を過る

調印が終わり、ケインズ会長が出て行くと、後を追うように類が飛びだして行った
その光景を見て

「やっぱり俺は類には敵わないんだ…」

と囁いた