~NY道明寺オフィス~
コンコン
「何だ」
「ケインズ会長から15分ほどで到着すると連絡が入りました」
「解った」
「類、今回のプロジェクトなんだが、仕掛け人がいてケインズ財閥って知ってるか?」
「う~ん、アメリカじゃ5本の指に入る企業だから名前はね」
「そこのケインズ会長が『若い力が見てみたい』と言って俺と類を指名してきたんだ」
「何で?」
「それは俺も解らない。でもまぁ~類と一緒に仕事が出来るし、もっとでかく名前を売るチャンスだからな」
「そうだね」
さっきまでの寂しそうな顔を2人して仕事モードに切り替え、司と俺はケインズ会長を迎える為、ロビーに向かった
…でもどこかで
ケインズ会長って会った事がある気がする?
ロビーに行くとSPに囲まれたちょっとパッとしないオジサンが入って来た
あっ!
キャッチボールのオジサン…
「ルイ君、お久しぶりです。私の事、覚えていますか?」
「はい。お久しぶりです」
「類、ケインズ会長と知り合いなのか?」
「うん。司が牧野の事NYで追い返した時に知り合った人。司も知ってるでしょ、牧野のお陰で道明寺財閥助かったんだから」
「あぁ」
2人して暗い顔になりかかる寸前で
「さぁ~ツカサ君、ルイ君、君達の力を見せてもらうよ!案内して貰おうか」
とウインクをしてケインズ会長がホローしてくれた
…ん?何故!?
会議が終わるとケインズ会長が
「ルイ君は今回どれくらいNYにいるのかな?」
と聞いてきた
「1ヶ月位です」
「ん~、1ヶ月かぁ~うん、うん」
と何か意味不明な応答
「2週間後の調印まで毎日様子を見させて貰うよ♪じぁ」
とリムジンにサッサと乗り込み、去って行った
「なぁ~類、今日はこれからどうするんだ?」
「ん~一度会社に戻って報告してからマンションに帰る」
「そっか、んじゃ~近い内に夜開けとくから久しぶりに飲みにでも行こうぜ!」
「そうだね」
と後ろ向きに手を振り、会社に行き仕事を終わらせ、散歩がてらセントラルパークへと向かった
10m程先でセントラルパークから1人の女性と、その人を守るように数人のSPみたいな男性が出てきて足早にリムジンに乗り込んだ
綺麗で真っ直ぐな黒髪…ま・き・の?
その女性が立ち去っても、しばらく俺はその場から動けなかった
あの横顔…あれは絶対に牧野…
でもあの服装にSPみたいな男達…
そしてリムジン…
どうみても牧野っぽくない…
ん~
解らない事だらけで同じ考えがグルグルしている間に、空が明るくなり始めた
「はぁ~俺って相当牧野にイカれてる…クククッ」
あれから1週間
時間が許すかぎりセントラルパークに行ってはみたけど、牧野に会える事はなかった
この間、司と飲んだ時にこの事を言おうか迷ったんだけど、もし万が一、違かったらと思い、取り敢えず俺がNYにいる間は、自分で探すと決め話さなかった
でもあれは絶対に牧野だよ
俺が牧野を見間違えるなんてあり得ないもん
~司~
やっとスケジュールを調節して類と飲んだ
俺様が
「類!行くぞ」
と誘ってやったのに類のヤツ
「ヤダ。眠いから帰る」
と即答しやがった
相変わらずだな
「最近、周りが煩いから邸で飲むぞ!寝たかったらそのまま泊まればいい」
と無理やりリムジンに連れ込んだ
邸に着くなり
「ふぁ~じゃ、司おやすみ」
と部屋に行こうとする類を無言のまま捕まえ、リビングに連れて行く
「ホント司って俺様」
と言いながらも飲み始めた
特に話をする訳じゃないが、類独特のゆったりとした感じが妙に落ち着く
総二郎やあきらがいたら静かに飲めないからな
そういえば牧野が
「非常階段で類と一緒にいると落ち着く」
って言ってたな
その後
「俺様じゃ落ちつかねぇのか!!」
って言ってやったけどな
「ねぇ~司」
「あぁ?」
「何怒ってるの?こめかみに青筋たってる…ククククッ」
「ふん!何でもねぇよ!」
「ねぇ~もし牧野が見つかったら司はどうするの?」
「どうするも、絶対取戻す!!」
「あんな手紙渡されちゃったのに?」
「類、てめぇ~喧嘩売ってんのか?」
「ククククッ」
「そう言う類はどうなんだ?お前の方こそその他大勢の手紙だったじゃねぇ~か」
「別れ話の手紙よりはマシでしょ」
「てめぇ~」
「譲らないよ…」
「あ?」
「今度は司にも誰にでも絶対渡さない」
「宣戦布告だな!」
~調印前日の夜 ケインズ邸~
「ツクシ、入ってもいいかな?」
「あ、はい!どうぞ」
部屋に入ると、ツクシはバルコニーで『大切な物』を手に握り締め胸に添え、月を見上げている
ツクシがケインズ邸で過ごすようになってから、見慣れた光景だった
以前、あまりにも悲しそうなその光景を見て、尋ねた事がある
その時ツクシは、少し顔を赤らめ
「私の一番大切な人から貰った宝物なの。お守りみないな物かな」
と答えた
ツクシはどこに行くにも必ず、その『大切な物』を持ち歩いている
「ツクシ、遅くに悪いね。今日はお願いがあってね」
「お願い?」
「ああ」
「お父様のお願いじゃ、聞かない訳いかないかな」
と軽くウインクして部屋に入いる
「実はね、明日とても大事な調印があるんだが、そのツクシの『大切な物』を持って行きたいんだ」
「え?」
「今まで大事な取引の時は、ツクシが秘書として傍にいてくれて、すべて上手くいったからツクシは私にとってお守りみたいなものなんだ」
「お守りって…。でも明日はどうしても外せない用があるから…」
「だからツクシの代わりにツクシの大事にしている『大切な物』を傍において置きたいんだ。ツクシが傍にいてくれているように思えるから…ダメかな?」
「何かお父様って甘え上手?」
「あははは!本来ならず~と傍に置いておきたいんだがね!」
「参りました…明日は私の代わりに『大切な物』を傍に置いて下さい」
「ありがとう」
~調印の日~
2週間、しっかり若者二人を見させて貰った
本当に対照的な二人だが、仕事はもちろん、人柄もなかなかいい
まぁ~ツクシを選んだって事で、二人は合格点をあげているけどね
ツクシも思った以上に見る目があるのかな
さぁ~て、ツクシの思い人はどちらか確かめるとするか…
専務室の応接に通される
ツカサ君の今の肩書きは『専務取締役』
私が
「堅苦しくない場所で調印をしたい」
という申し出をしたからだ
実際は『鉄の女』に色々な面で、邪魔されない為になんだが…
私が応接に入るとツカサ君、ルイ君、二人とも既に来ていた
挨拶を交わし、コーヒーを飲みながら軽く雑談をし、本日のメインイベント…調印
三人で書類を確認し、二人がサインをする
そして私に書類が渡された
その書類を机に置き、私は内ポケットからツクシの『大切な物』を取り出し、ツクシがいつもしているように握り締め胸にあてる
そしてそれを、書類の横に置いた
「そ、それは?」
ツカサ君が尋ねる
「これはね、娘の一番大切な人から貰った宝物なんだ。いつもは大事な取引の時は秘書として傍にいてくれるんだが、今日は用があって来れない代わりに無理を言って借りできたんだよ。娘が傍にいるようで心強い気がするよ」
「一番大切な人から貰った宝物ですか…」
ツカサ君が小さな声で囁いた
無事に調印が済み、お互いにまた握手を交わし、私はオフィスを出た
エレベーターに乗り、1Fに向かう
その時、専務室から一人の若者が私を追うため、飛び出していた
迎えのリムジンに乗ろうとした時
「ケインズ会長!」
専務室から飛び出した一人の若者が、私を呼び止める
彼は一呼吸すると、私に真剣な目を向け
「私に娘さんを会わせて下さい。お願いします」
「何故だね?」
「私も娘さんが一番大切な人だからです」
私は彼の肩をポンポンと叩き、今夜9時に邸へ来るように言った
~ケインズ邸 夜~
「ツクシ~!ただいま」
「お父様、お帰りなさい!」
「お父様、僕がいるのを忘れていませんか?」
「あぁ悪い、悪い!ススムただいま!」
「お帰りなさい!ホントみんなして姉ちゃんに弱いんだから…」
「ハハハハッ!さぁ~お腹がペコペコだ、早く夕食にしよう」
夕食を終え、部屋へ行こうとすると、お父様に呼び止められた
「ツクシ、君の『大切な物』を返さないとね!」
「フフッ、効果はどうでした?」
「効果絶大だったね!」
「私がいるより良いかもね!」
「ん?ツクシがいた方が面白かったかも…」
「エッ?」
「いや~なんでもないよ!あ~そうそうツクシ、9時頃にお客様か来るんだが、私は調べ物があってお出迎え出来ないから代わりにお願い出来るかな?」
「えぇ、でも遅くに…どういった方なんですか?」
「とっても大切な人だよ」
9時5分前
つくしの部屋の内線がなる
「お客様が門をお入りになりました。お出迎えの用意をお願い致します」
「はい、直ぐに行きます!」
慌てて玄関ホールに降りて行くと、使用人の人が一人だけで
「旦那様より、お迎えはつくし様お一人でというご指示でしたので、私も失礼致します」
と去ってしまった
どういう事??
その時玄関の扉が開き、つくしは慌てて振り向いた
「エッ?」
驚きより先に身体が動く
お互いに駆け寄り、熱く抱き締めあっていた