星に願いを(類視点)②


「そういえば司もボヤいてたよな。俺様がいるのに非常階段でよく二人が会ってるってな」

俺が牧野がいるんじゃないかって狙って行ってるからね
会う確率は高いでしょ、クスッ

「た、たまたま花沢類もあたしも非常階段が好きで…それで偶然会うだけだから…」

あそこは特別だからね

「でもまぁ~来年は牧野もNYに行くんだし、司もヤキモキする事もなくなるだろ」
「あまり連絡が来なくても、後もう少しの辛抱ですから、先輩」

非常階段で牧野に会えるのも三月まで
来年、牧野が高校を卒業したら行っちゃうんだよね、司が待つNYへ
司との約束だから

「あの…え~と…その事なんだけど」
「プロムはもちろん出るんだよね!司もその日だけは何が何でも帰って来るでしょ」
「ハハハッ、多分帰って…来ない」

どういう事?
あの司が来ないなんてさ

「おいおい、お前らケンカでもしたのか?」
「あのね、別に隠すつもりはなかったんだけど…」
「まさか別れたなんて事ねぇ~よな」

あきら、司が牧野を手放すはずないでしょ

「そんなんじゃなくて…あたしのワガママで、やっぱり日本に残る事にしたの。それで来月、英徳大学の特待生試験を受けるんだ」
「マジかよ。でもよ、英徳に特待生制度なんかあったのか?」
「…今年、出来たみたい」

司か…英徳に特待生制度なんて必要ないからね

「つ~かよ、お前もう少し司に甘えてもいいんじゃね?どうせ家が心配で行けないって決めたんだろ」
「先輩が人に頼るなんて、性格的に無理ですよ」
「ハハハッ、本当に心配ばかりさせてごめんね…でもみんなに話せてスッキリしたよ」

まさかこんな展開になってるなんてさ

「外の空気すってくる」
「あっ、花沢類」
「先輩はまだですよ。もう少し聞きたい事があるんですから」

牧野がNYへ行ってしまえば、傍にいなければ諦められると思ってたのに
神様は意地悪してるのかな
俺、司みたいにそんな悪さしてないと思うんだけど

「う~寒い!でも体が火照ってるから気持ちいい」

牧野…

「クスッ、飲みすぎちゃった?」
「フフフッ、ちょっとだけね。うわぁ~すっごく星がキレイ!」

やっぱり俺…あんたの事、諦めきれないかも

「毎年見てるよ、この時期にね」
「エッ!?毎年こんな寒い季節に花沢類が?」

そんなに俺って冬は籠もってるイメージなのかな
でも確かにここに来てもほとんど暖炉の前にしかいないけど

「冬は星がキレイだからね。それにこの時期なら観光客も少ないし、スキー客も来ないでしょ」
「そっか…夏は避暑地だし、秋は紅葉、冬は…ブツブツ」

クククッ、そんな真剣に考えなくても

「あっ、流れ星」
「エッ!?どこどこ?」

流れてからじゃ~遅いでしょ、クスッ

「一瞬だからずっと見てなきゃね」
「あ~ぁ、残念。願い事しようかと思ったのにな」

願い事ね
本当に願いが叶うんだったら、去年しておけば良かった
牧野がずっと俺を好きでいてくれますようにってね

「そういえば今日って、いい夫婦の日って言うんだよね」

今日…11月22日
ふ~ん、なるほどね

「牧野がせっかく教えてくれたから、毎年この日に来ようかな、覚えやすいし」
「フフッ、結婚して夫婦で毎年こうやって星を眺めるなんて、いいかもね」

相手が牧野ならね

「「あっ、流れ星」」

クククッ、まだ祈ってる
牧野の願い事はきっと司の事だよね
それじゃ~どっちの願いが叶うのか楽しみだね

「牧野、そんなに沢山お願いしたら聞いてくれなくなっちゃうよ」
「だって消える前に三回繰り返さないといけないんだよ」

「そうなの?でもさ、三回繰り返してたら確実に消えてると思うけど」
「ハハハッ、そうだよね」

消えてるのに三回繰り返した牧野の願い事と、消える前に一回だけした俺の願い事
どっちが有利なんだろう

何回もお願いした方が、切実な感じがするよね
それに現実的に考えても…



一年前と同じように、今日も星がキレイに見える

『今、空港にいるの。これからNYに行って来ます』

牧野から届いた三日前のメール
あの時の牧野願いは、NYへ司に会いに行く事だったのかもしれない

来年もここで
牧野と過ごしたい

やっぱり三回繰り返した方が良かったのかも、クククッ
牧野が日本にいると決めてから、今までと変わらず牧野と一緒にいるのが当たり前で、司の存在を忘れてた
牧野の誕生日、司の誕生日…所々で司がチラチラしてたのにね
今思えば、牧野はこの日の為に一生懸命バイトをしてたんだ

願いを叶える為に

クスッ、でもそれって願いじゃなくて、目標のような気がするけど

クククッ
俺ってホント情けない
まったく何にもしてないくせにこんな所でグダグダしてるなんて
今更遅いのは解ってるけど…

ピッピッピ!

『花沢です。遅くにすみませんが今から東京に…』

ピンポン!

あれ?!
管理人さん、もう来たの?

『すみません。またかけ直します』

まさか外で待機してたって訳ないよね

ガシャ

「ただいま、花沢類!」

牧野?!

「フフフッ、花沢類の驚いた顔、激レア」

そりゃ~誰だって驚くでしょ
東京ならともかく、軽井沢なんだから

「え~と、花沢る…キャッ!」

ごめん、牧野
俺、やっぱりあんたを誰にも渡したくない

こうして暖炉の前に座って、牧野を抱きしめながら話が出来るなんて思ってもみなかった

「牧野、寒くない?」
「うん、大丈夫///」

慌てて東京に戻らなくて良かった
すれ違いで俺がNYに行くところだったからね
まさか牧野が一泊三日の強行スケジュールでNYに行ったなんて思わないから、クスッ

「もう!また笑ってる」
「ククッ、だって普通しないでしょ」
「そ、そうだけど…どうしてもこの日に花沢類に会いたかったから…あっ…ん…うんん…」

ありがとう、牧野
俺の願いを牧野が叶えようとしてくれてたなんて思わなかったよ

「牧野、ごめん。俺が早く司に会いに行けば、牧野がNYに行かずにすんだのに」
「違うよ、花沢類。あたしが花沢類を好きになってしまったから///え~と、だからあたしがケジメをつけなきゃいけなかったの」

司に会いたくて一生懸命バイトしてたんだと思ってた
確かに会うためにしてたんだけど

『別れたいなら俺様に直接会って言え。それまでは別れるつもりはねぇ~からな』

まったく司は意地悪だよね
牧野が毎月大変なの解ってるくせにさ

「牧野、星見ようか」
「うん!」

今度は俺が司に会いに行って来る
牧野を必ず幸せにするってね

「また流れ星が見れたらなにお願いしようかなぁ~」
「そういえば一年前、牧野は、どんなお願いしたの?」
「あ、あたしは…///」

一年後、花沢類に
飛び込む勇気を下さい

fin 
2010.11.12