代償の果てに④-3


クククッ、あんな伝言残したら、また牧野怒っちゃうかな

秘書からならまだしも、父さんから直接電話なんて、一体なにって思ったけど
まさか牧野をパーティーのパートナーに選んでくるなんて思わなかった
この間まで牧野と俺が騒がれていた事、知ってるはずだよね、父さん
俺がずっと想っている相手だって事も…

牧野がいなくなってから
五年間
散々お見合い話を持って来たくせに一体何を企んでるんだろう

ククッ、でもよく司が許したよね
牧野は断れなくて、仕方なく了承したんだろうけど

父さんが何を考えてるか解らないけど、これでまた日本へ帰る楽しみが出来たかも 
まずは…

「急で悪いけど二時間くらい出てくるから、スケジュール調整して。じゃ~行って来る」
「あっ、花沢専務…これから会議が…」

そんなの引き継ぎしてる部長で十分でしょ
っていうか、それくらい出来なきゃ俺、いつまでも日本に帰れないから
今は俺にとっては会議より、こっちの方が大事だからね
もうあの頃のように、二度と牧野を手放したくないから、牧野を手に入れるまでは悪いけど
ククッ、よろしく

バン!

「二時間で戻らなきゃいけないから、早く行って」
「はい、畏まりました」

五年前のあの時…
俺がもっとしっかり牧野を見ていれば、手放さずにいられたのに…
今思えばあの日の牧野、確かに最初から不自然だった
いつも車に乗ると寝てしまう牧野が、葉山に着くまで、ずっとはしゃいで起きていたんだから
あの時は、牧野と一緒に過ごせるのが嬉しくて、気がつかなかった…


~五年前~

「季節外れだからやっぱり全然人がいないね!」

海を見た途端、駆け出す牧野
クククッ、コートも着ないで

「ま~きの、風邪引いちゃうよ」
「あっ、ヤダ、ありがと、花沢類。こ~んな広い海を独り占め出来ちゃうなんて夏じゃ考えられないよね!ヒャ、冷たい」

冷たいって言いながらもピチャピチャしてるし、ホント無邪気だね、牧野
クククッ、こんな可愛い牧野を見れなくて
司、残念だったね

昨日…
西田さんが現れて、もしやって思ったけど
牧野が嫌がるだろうからって、わざわざ英徳に特待生制度をった司が、まさかNYに連れて行くなんて考えられないしね
牧野もいつもより元気いっぱいだけど、きっと海に来てるからかな
落ち込んでる様子はないし

でも…
ただ何となく引っ掛かるだよね
ずっと連絡して来なかった司が手紙で…しかも西田さんをわざわざ使って

牧野も何で急に…
車の中で聞いてみたけど

『バイトもお休みだし、特待生になるのにものすごく頑張ったから、自分へのご褒美かな!って花沢類にしてもらうのは変だけどね、ハハハッ』

確かに牧野、バイトをしながら勉強も頑張ってたし、非常階段に来ても、クククッ、教科書とにらめっこだったよね

う~ん、俺の気にしすぎなのかな
ククッ、俺ってそうとう牧野にイカれてね
牧野が司の彼女でも、傍にいて欲しいなんて

「花沢類~!ねぇ~こっち来て!」
「あい」

でも出来るなら…
牧野を俺のものにしたい


そんな棒きれ持って、砂浜に夢中になって描いてるけど…
ねぇ~牧野、これ一体なに?

「よし!出来た」

う~ん…
大きい四角とか、小さい四角とか並んでるけど…

「牧野、なに描いたの?」
「見て解らない?あたしが結婚したら住みたい家の間取り図だよ!」

こんな小さい家でいいの?
牧野

「花沢類、こっち来て。ここが玄関ね!それで階段がここにあって、一階のトイレはここ」
「牧野、このトイレ、入ったら身動き出来ないくらい狭いんだけど…ほら」
「フフッ、花沢類の家のおトイレは必要以上に広すぎなんだよ!一般庶民はこれが普通なの」
「でもさ、もう少し広くしない?これじゃ~俺、入れないし」

どうしたの?
牧野、顔真っ赤だけど

「そ、そうだね///じゃ~それは後で考えるとして、他の部屋ね!キッチンはここで、もちろん対面キッチン!料理しながらお話出来るし、何やってるのかなって見えるから」

牧野と結婚したら、料理は牧野が作ってくれるだろうし、そのキッチンはいいかも
料理してる牧野の事も見ていられるって事だよね

「ねぇ~牧野、一階はこの部屋と後一つしかないの?」
「そうだよ!ここがリビングでしょ、それでこっちが和室!もちろん冬はこたつね」

こたつって牧野の部屋にあるヤツ?
確かにあれは暖かくっていいよね
ポカポカしてすぐ眠くなりそうだけど

「リビングは大きなテレビを置いて、ここにソファーね!今までソファーのある生活した事がないから憧れてるんだよね」

でもさ、この部屋に置いたら余裕が全然ないけど…

「ククッ、牧野、こっち来て。ここにソファー置くんだよね?テーブルはもちろん前に置くから…ね」
「ヤダ、狭すぎだ…もっと家を大きくしないと入らない。あ~やっぱりこういうのを描くのは難しいんだね!」

クククッ
一生懸命描いたのにね
牧野と一緒に住む事が出来るなら、俺はどんな家でもいいけどね


「牧野、別荘に行こ。お昼用意してもらってるから」
「うん!お昼食べ終わったら今度はブラブラお散歩したい!いいでしょ、花沢類?」

牧野、そんな可愛い顔で言われたら…

チュッ!

「ククッ、牧野の好きなようにしていいよ」
「は、花沢類///」
「行こ」

こうやって手を繋いで歩いてると、ホント周りから見れば仲のいいカップルにしか見えないよね

「ねぇ~花沢類、何だかすごく楽しそうだけど」

当たり前でしょ
牧野とこうしていられるんだから

「すれ違う人達が、微笑ましい顔して見てるから、きっと牧野と俺、恋人同士に見えるのかなって。実際は違うのにね」

あれ!?
牧野、どうしたの

「そうだよね…あ、あたしは花沢類の彼女じゃ…ないんだよね…」

牧野?
何でそんな顔してるの

「でも今日は彼女みたいなものでしょ、デートしてるんだし。クククッ、しかも牧野からのお誘いでね」

こんな事…この先ないかもしれないし
今日は司、悪いけど牧野借りるよ

「ハハハッ、そうだった、今日はあたしが花沢類を誘ったんだよね///でもあたしって贅沢だよね、天下のF4の花沢類とこうして一緒にいられるだから」

俺の方が贅沢だよ
大好きな牧野と一日過ごせるんだからね