心の扉①-2


コンコン

「どうぞ」
「類さん、いらしたのね。それなら直接渡して下さればいいのに。でも本当に嬉しいわ。ありがとう、類さん」

ふ~ん、今日だったんだ
それじゃ~無事婚約成立って事か

「喜んでもらえて良かったよ」

誰が選んだか解らない婚約指輪なんだけどね

結城みずき

たしか父さんの友人の娘だったっけ
ヨーロッパを中心に数多くホテルを手がけてるっていう
フランスの大学で一緒だったって言ってたけど、全然知らない
まぁ~花沢物産には大して得にはならないけど、それ相応の相手って感じで別にいいんじゃない

「明日は一緒に日本へ?」
「えぇ、ご一緒しますわ。きっと日本で大騒ぎになるでしょうね、うふふ」

この人、何が嬉しいんだか
一緒に帰国したら、騒がれて、うるさいだけなのに

「悪いけど、これからまだ仕事が残ってるから」
「あら、日本に行くのに、まだこちらでのお仕事がおありなの?」

あんたといるより仕事してた方がマシって事
クククッ、はっきりそう言えたらいいんだけどね
一応、大事な婚約者殿だから

「ごめん、明日、迎えに行くから、一緒に空港へ行こう」
「まぁ~嬉しい、類さんが迎えに来て下さるなんて。それでは明日、お待ちしていますね」
「うん、それじゃ~おやすみ」

ジュニアとして、与えられたら女性を大事に大切にしていくよ
牧野を諦めた時に決めた事だからね

『本当にいいんだな、類。後悔はしないな』

散々ただの会食と言っては、何度も色んなの女とお見合いさせてきたくせに、父さんにしつこいくらい言われたけど、後悔ならもうとっくにしてるから
自分の気持ちにどうして早く気がつかなかったんだろうってね
もし牧野が俺を好きでいてくれた時に気づいていれば、今、俺の傍に牧野がいたかもしれない
司の傍ではなく…

クスッ、そんな事ないか

あの二人がくっついたのは、運命だったのかもしれない
あの鉄の女、司の母ちゃんに認められたんだから
人の心なんかまったく考えない、子供の結婚をもビジネスに利用する人なのにね
誰にも手に負えない猛獣だった司を牧野が変えたって事は、どんな良縁よりも絶大だったのかも
正直、運命とかそういう類いのものは信じてないけど、初恋は実らないとも言うしね
やっぱり俺って本気で好きになった相手とは上手くいかないみたい

俺にはジュニアらしい結婚が合ってるんだと思う
だからこれで良かったんだ
もう後戻りは出来ない
あの人には悪いけど、もう誰も好きにならない
牧野以外は考えられないから

だから…

牧野の事は心の奥深くに閉まっておく
二度と開かない扉の向こうに

フランスへ来てから、牧野の事は考えないようにしてたけど、思い出すとやっぱり次から次へと頭に浮かんで来て、なかなか寝付けなくて、気がついたら朝になってた
昔は三年寝たろうって言われるくらい良く眠れたのにね
まぁ~飛行機の中で寝ればいいし、あの人と話さなくていいから丁度良かったかも