心の扉②-1


「道明寺、ホントにごめんなさい…それと…ありがとう」

まったく聞き飽きたって言ってんのに、最後までそれかよ

「いいか、覚えとけ。俺様はまだ諦めたわけじゃねぇ~からな。お前に何かあったら日本へすっ飛んで奪いに行くから、覚悟しとけよ」

正直、牧野が言い出す前に類が奪いに来るんじゃねぇ~かと思ってたが、類のヤツ、五年間一度も連絡すら寄越さなかった

「まったくなに言ってんのよ、道明寺財閥の御曹司が。そう簡単に日本になんか来れるわけないでしょう。あたしなら大丈夫!雑草パワーで頑張るからさ」

まぁ~大丈夫だろ
類が牧野を忘れられるはずねぇ~しな

「無理すんなよ。お前はすぐ一人で何でも頑張りすぎるとこがあるからな。何かあったら連絡しろ、解ったな」

「…ありがと…道明寺。ホントにごめんね…」

「お前のごめんとありがとうは聞き飽きたんだよ。ったく何度言ったら気が済むんだ」

泣き笑いしやがって
そういうお前のしぐさがいつまでも忘れられなくさせるって解ってんのか

「いつまでも、んな顔してんな。お前、すっげぇ~ブスだぜ。おっと、もう時間だな」

「まったく最後まで道明寺は!それじゃ~あたし行くね。バイバイ!」

「おう、じゃ~な」

フッ、やっと牧野らしい顔になったな
んな顔を見ると、覚悟してたはずなのに、引き戻したくなる
やっぱりお前は最高の女だぜ

頑張れよ、牧野

行っちまったな…

この俺様が五年も一緒にいたのに、類と過ごした、たった一年に負けるとは思わなかったぜ

あの時…

牧野が高校を卒業するまで待たずに、無理やり一緒にNYへ連れて行っていれば違ったのか…

類の傍にさえいさせなければ…

チッ、俺様とあろうものが、いつまでも女々しいな

例え一緒にNYに来ていても、こうなっていたはずだ
牧野の心の奥には類への気持ちがあったんだからな
きっと俺様の強引さに気持ちが流されただけだったんだろう

俺様のNY行きが決まって、心のどこかで不安な気持ちがあった
いや、解ってはいたが手放したくなかったんだ
だから一年後、牧野がNYに来ると同時に婚約する約束をさせた

類への気持ちに気づいたとしても、絶対にNYに来ると思っていたからな

フッ、でも実際婚約って言っても、おそらく覚えてるヤツなんかいねぇ~だろ
ただ指輪を渡しただけなんだから

形だけの婚約をしても、俺様がいくら努力しても、こうやっていつかは類の元へ行っちまうって、俺様自身、悔しいがバハァも最初から解っていた事だ

しかしバハァが牧野をバックアップするとは思わなかったぜ

牧野に借りがあるとか、ビジネスだとかほざいてやがったが、バハァが一番牧野を認めてたな

実際に俺様もバハァも手を回さずに、花沢物産に入れちまうんだから大したヤツだ

「司様」

チッ、うるせ~な

「司様…司ぼっちゃん」

なんだ、西田か

「牧野も行っちまったし、社に戻る…どうした、西田」

「司ぼっちゃん、これを…」

あ?
なんだ、こんな所で雑誌なんか渡しやがって

………どうなってんだ

類が婚約だと?