代償の果てに⑦-1


ん~
よく寝た!

っていうか、ホント我ながら感心するよ
パーティーの事とか、花沢類の事、道明寺の事、色々考えちゃって、眠れないかもって思ってたけど、しっかりと爆睡して…

でもきっと…
花沢類の声が聞けたから安心して寝られたんだと思う
花沢類…
何でいつもあたしが思っている事が解るんだろう
声が聞きたかった事も、ホントは会いたかった事も…

この部屋を用意してくれているって聞いた時、もしかしたら花沢類もこのホテルに泊まるのかもって思ってたから、会えるんじゃないかって勝手に期待してて
邸にいるって聞いて、少しじゃなく、すっごく残念だった
花沢類の声を聞いて、余計に会いたくなっちゃったから…

はぁ~
まったくあたしって…
起きて早々、花沢類の事ばかり考え込んで
ベッドにいつまでもいるからいけないんだよね

さぁ~てと…ん?
外にすっごい人だかり
マスコミも大変だよね
こんな朝からホテルの前に張り込むなんて
フフッ、でもあたしがこのホテルにいるなんて、みんな知らないんだろうな
まぁ~マスコミが狙ってるのはあたしだけじゃないんだろうけどね

よし!

シャワー浴びて、朝食とりながら、一仕事しないと
パーティーだからって丸一日休んでもいられないから
案の定、パソコンにメールが沢山届いてるし
早く処理しないといけないね
のんびりしてる場合じゃなかったよ


コンコン

「は~い」

カシャッ

「ま~きの」
「は、花沢類!?」

そんなに驚く事もないでしょ
昨日電話で午前中、このホテルに来るって言っておいたのに

「牧野、おはよ」
「あっ…あの花沢支社長、ちょっと、待って…」

クククッ
今日はハグから拒否なの?
でもね、帰国してから会える時間がなかったし、昨日だって電話だけだったから、これくらいいいでしょ

「類、いい加減にしないと牧野さん、困ってるんじゃないのかな」

何で…
何で父さんがここにいるの?

「自宅にも寄らず、ホテルに直行ですか、社長」
「おいおい、類。今はプライベートな時間だ。普通にしてくれないか」

ふ~ん
プライベートな時間に何で牧野の部屋に訪ねて来る訳?

「牧野に何か用でも?」
「は、花沢支社長、私に気を使ってお越し下さっただけなんです。ですから…」

ふ~ん
でも何か意図がありそうなんだけど
花沢物産で力をつけるって決めた時に、全てを父さんに話してるんだから

「父さん、何言ったの、牧野に」
「花沢支社長、本当に…」
「父さん、知ってるよね?今までのマスコミ騒動の事も」
「あぁ。今回のイベントに話題性が出来て、良かったんじゃないか」

何言ってんの?
話題作りしてた訳じゃないって事も、解ってるはずでしょ

「牧野と一緒にいたいから自然に行動しただけです」
「そうか、まぁ~そんな事はどちらでもいい。お前の就任のお披露目にプラスになる事であればな」

クククッ、まるで司の母ちゃんみたいな言い方だね


「それでは今日最後の話題作りの為に、これから牧野とランチに行って来ても宜しいでしょうか?」

エッ!?
そ、そんな事したらマスコミがウジャウジャいるのに大騒ぎになっちゃうじゃない!

「類、これ以上騒ぎになると牧野さんに申し訳ないだろう。この部屋に食事を用意させる。その代わり私は退散するから二人でゆっくり楽しむといい。では牧野さん、今日は宜しく頼むよ」
「あっ、はい!こちらこそ宜しくお願い致します」

はぁ~
助かった…
花沢類の事だから、平然とマスコミの前に出て行きそうなんだもん

「牧野、ホッとした顔してる、クスッ」
「あっ…いいえ、そんな事は…でもこれ以上マスコミを刺激しなくてもとは思いましたけど…」
「クククッ、本気でマスコミの前に出る訳ないでしょ。ああ言わないと父さん、いつまでもいそうだったからね。早く牧野と二人きりになりたいのにさ」

まったく花沢類ったら…
どうしてサラッと恥ずかしげもなくそんな事言えちゃうかな

顔が赤くなりそうだよ
どうしよう…

「あ、あの…花沢支社長はこのままパーティーまでこのホテルにいらっゃるんですか?」
「クククッ、俺がいたらイヤ?」

イヤなんて事はない
一緒にいつまでもいたい
なんて素直に言えたらな…

「いいえ、ただお仕事は大丈夫なのかと思いまして」
「牧野は午後からエステの予約が入ってるんだっけ。食事が済んだら俺も会議が入っているし、退散するから安心していいよ、クスッ」

やっぱりゆっくりはしていられないんだね
でもエステの予約って?
そんなのしてないけど…

「あれ?秘書から今日のスケジュールが書いた紙もらってない?」

あ~
確か渡されたような…あった
花沢類じゃなくて、秘書の人が最終打合せに来たからガッカリして、もらってた書類を見直すのすっかり忘れてた

「午後1時から全身エステ…3時間コース!?」

なにコレ…

「クククッ、キレイになった牧野、楽しみにしてるよ」


今まで勉強や仕事ばかりして来たから、エステなんてした事がなかったんだけど…気持ち良くて寝ちゃいそう

ん~
そう言えば今日のパーティーはどうしよう
ランチの時、花沢類に本当に花沢社長から何も言われてないのかって何度も聞かれて、何も言われてないって答えたんだけど

本当は…

「牧野さんは英徳で類と一緒だったそうだね」
「はい、花沢支社長には大変良くして頂きました」
「以前に一度だけ、類から牧野さん、あなたの話を聞いた事があってね」

花沢類があたしの事を?

「何事にも一生懸命で、頑張り屋で、元気いっぱいの牧野さんが見せる笑顔はみんなを幸せな気持ちにさせると」

花沢類…

「花沢支社長がそのような事を…」

花沢類と離れてからは、心から楽しんだり、笑ったりしてないな

「いつもきっちりとしていて、類の言うイメージとはまったく違う印象だったから、本当に牧野さんかと疑ってしまったよ」

仕事中は仮面を被っているから…もちろん今もだけど

「そう見せているだけで、実は中身は全然変わっていないんです」
「仕事中は仕方ないか、楓さんは恐いからな」

ついでに西田さんも

「フフフッ、はい」
「その笑顔も類が言っていた笑顔と違うんだろうね」

エッ!?

「花沢社長?」
「今日のパーティーでは普段の牧野さんで類のパートナーをしてもらえないかな」

突然なにを…
それに普段のあたしって…仮面を被るなって事?

「あの…でも…」
「いかにもビジネス上のパートナーを連れてますというより、以前からの知り合いなんだから、自然にしている方が挨拶廻りをする時に印象が良いと思わないかい?もちろん頭の中にある情報は秘書バージョンのままでお願いしたいけどね」
「はぁ~、はい…」
「よし、決まりだ!宜しく頼むよ。私も牧野さんの本物の笑顔を見れるを楽しみにしてるよ」

ってな感じで…

でもいいんだろうか
そりゃ~あたしも少しだけ普通にしたいなって考えていたけどね
返事をしてしまったし…仮面外しちゃおうかな