代償の果てに⑥-3


空港での花沢類との騒動から一週間

就任パーティーの最終打合せに、花沢類の秘書の人が来たけど、花沢類とはあれから一度も会う事もなく、電話も来ない
秘書の人から、パーティーで会えるのを楽しみにしているって花沢類からの伝言をもらっただけ…

忙しいから?
それともやっぱりあたしの事なんて何とも思ってないとか
はぁ~
まったく何考えてるんだか、あたし…
自分から望んで花沢類から離れたのに

あっ、もしかして気を使ってくれてるのかもしれない
空港の件以来、マスコミが凄いから
今日だって明日はマスコミが張り付いて大変だろうからって、パーティー会場のホテルのこんな豪華なお部屋を用意してくれて

でもさ、そもそも花沢類がいけないのよ
あの日、打合せしたホテルから出る時、アレだけマスコミ対策万全だったくせに、何でダミー車をマスコミを巻きもせず、花沢邸に直行させる訳!?
お陰でその夜は花沢邸にお泊まり報道になって、余計に噂が大きくなっちゃったんじゃない

道明寺にも言い訳するのもホント苦労してしたんだから
まぁ~花沢邸にお泊まりっていうのは、さすがに道明寺も嘘だって解ってはいたけど
ドレスや靴とかも、花沢類からプレゼントされたなんて言えなくて、自分で買ったって誤魔化したんだけど、道明寺って目ざといっていうか…

「類ん家が愛用してるブランドのドレスだよな」

何でそんな事まで知ってるのかな…
それでも見立ててもらっただけだと誤魔化したんだけど

「お前のサイズにピッタリのドレスがよく店にあったな」

って絶対にバレてる…と思う

でもあれからは何にも言って来ない
大丈夫って事かな
きっと花沢類の就任パーティーだから多目に見てくれたのかも
今日、このホテルに向かう時も何にも言って来なかったし

はぁ~
それにしてもこんな広い部屋で一人でいると何だか寂しいな
明日になれば会えるんだけど
でも今、花沢類の声が聞きたい…


「「よぉ!」」

あきらと総二郎、明日パーティーで会うのにわざわざ来なくても

「おいおい、せっかく来てやったのにチラ見でムシかよ」
「忙しいから」
「しっかし類がこんな真面目に仕事してるなんて、昔からじゃ想像できねぇ~よな」

まったくお祭りコンビは相変わらず呑気だよね、クスッ

「秘書にコーヒー頼んでおくから、もう少し待ってて」

どうしてもこの仕事だけはやっておかないとね
日本に帰って来て初めての司とのバトルだからさ

「そういや~明日は司、やっぱり前みたいに大河原と牧野、両手に花状態でまた現れるのか?」
「招待客リストに牧野入ってるんだよな、類」

あれ?
俺言ってなかったっけ
まぁ~いいか
今さら言うのも面倒くさいし

「牧野も大河原も来るよ」
「類は一人か?マスコミの間でも牧野は司の秘書だから無理だろうから、今回は同伴者なしか、類の秘書を使うんじゃないかって言ってたしな」

ククッ
当日が楽しみかも

「俺の秘書はみんな男だよ。でも男をエスコートして現れたら結構面白いかもね」
「おっ!それも話題性があってマスコミも喜ぶんじゃね?」
「でもよ、頭のハゲたオヤジには冗談が通じねぇ~から、後が大変だぜ。一応真面目な就任式パーティーだからな」
「なぁ~類、秘書の中に女装が似合いそうなヤツいねぇ~のか?」

って本気でやろうとしてないよね、二人とも

「俺が女装した方が結構イケルかも」
「かもな!何なら俺がエスコートしてやろうか?」
「類、本気で総二郎に惚れるなよ」
「クククッ、総二郎カッコいいから惚れちゃうかもね」



あの二人、冗談ばかり言って、帰って行った
一体何しに来たんだか
もしかして心配して来てくれたのな
司の就任パーティーの時みたいに、俺の就任パーティーでも牧野と司が一緒に来ると思って

ククッ
まさか俺のパートナーが牧野なんて思わないだろうし

でも別に意図的に隠していた訳じゃないのに、マスコミにも漏れてないなんて何だか変な気がする
司も何にも言って来ないし
当日、実は…なんて事はないよね

ピッ、ピッ!

プルルル…

『はい、牧野です』

あれ?
何だか元気ないね、牧野

『ま~きの』
『エッ?は、花沢支社長…この携帯番号をどうして』
『秘書から聞いた』
『そうですか…あの、何か急用でしょうか?』
『うん、牧野の声が急に聞きたくなったから』
『…』

あれ?
いつもなら秘書バージョンで切り返して来るのに

『牧野?』
『あっ…失礼致しました』
『ククッ、もしかして牧野も俺の声が聞きたかった?空港で会った以来だもんね、クスッ』
『いいえ、そんな事は…ただお礼を申し上げなくてはと思っておりましたので』
『ん?俺、牧野に何かしたっけ?』
『気を使ってこのような豪華なお部屋を用意して頂きまして有難うございます』

あ~
そんな事当たり前でしょ

『元は俺のせいだからね、クスッ』
『花沢支社長も本日はこのホテルにご宿泊ですか?』
『だとしたら、牧野の部屋に今から行ってもいい?』

ククッ、即お断りかな

『申し訳ございませんがお断り致します』

やっぱりね、クスッ

『行きたくてもね、邸だから。明日の午前中にそっちに行く予定』
『…そうですか』
『あれ?少し残念だった?』
『け、決してそんな事ははいです!』
『ククッ、牧野の声が聞けて、これで安心して眠れるよ。遅くにごめんね、牧野おやすみ』
『おやすみなさい………花沢類』

ピッ!
あれ?最後…


花沢類…
自分の気持ちに正直になって、花沢類に飛び込めたら、きっとすっごく幸せなんだろうな
でもこんなあたしでも花沢類は傍にいてくれるのかな
花沢類に何も言わず姿を消した挙げ句、道明寺と一緒にいる事を選んだあたしなのに

もし…
もしもそれでも花沢類がいいって言ってくれるなら、あたしは道明寺に正直に話して…

はぁ~
ホント自分勝手な考えだよね
花沢類の声が聞きたいって思ってたら、本当に電話が掛かって来て…つい都合のいい事ばかり考えちゃって

どう考えもムリ
道明寺はまだあたしを許していないんだから
日本へ帰って来て、本格的に滋さんとの結婚話が進んでいても、道明寺とあたしとの関係は何一つ変わらない
と言う事は、あたしを解放して、花沢類の元へ行かせる気はないって事

解ってるよ…道明寺
日本に戻ろうが、花沢類がいようが、道明寺と一緒にいる事をあたし自信が決めたんだから
道明寺はあたしの事をすっごく大事にしてくれている
たまに仕事中にあたしを困らせる事があるけど

でも花沢類の話題になった途端、いつも道明寺の顔が曇る
日本に帰って来てからは特に多くなった
その顔を見る度に道明寺はあたしを許してはくれていないと実感する…

花沢類の声が聞けて、明日だって一緒にパーティーに出られるだけでも、幸せだと思わないといけないよね

でも明日は…

花沢類のパートナーなんてきっと最初で最後だと思うから
少しだけだから
昔のように花沢類の傍にいてもいいよね