代償の果てに⑥-1


フフッ
それにしても親子ホントにそっくりだよね
紅茶にミルクと砂糖を入れる入れ方なんて丸っきり同じだもん

「牧野、なに?何で笑ってるの?」
「あっ、失礼致しました。以前、花沢社長が社の方へお見えになられた時、花沢支社長と同じように紅茶をお飲みになられておりましたので」
「そういえば父さんに会ったんだよね。クスッ、だからこうして打合せしてるんだけど」

ホントあの日、花沢社長に会わなければ、こうやって花沢類に振り回されずにすんだのにな

「今、父さんに会わなければって思ったでしょ」

なっ、何で解るかな

「今日は表情豊かだね、牧野、クスッ」

や、やだ…
道明寺が傍にいなくて、NYにいる間ずっと解放されてたから、つい表情に出ちゃって

「あ、あの、もう打合せも終わりましたので、私はこれで失礼致します」
「なに言ってるの、これから行く所があるから、まだ帰らせないよ」

だってこのまま花沢類と一緒にいたら…

「仕事に関係ない事でしたら、申し訳ございませんがお断り致します」
「クククッ、もちろん仕事に関係する事だから。じゃ~行こ」

私とは違って、随分と余裕のある顔してるよね、花沢類
やっぱりそう簡単には解放してもらえないか

「解りました…その前に少し失礼致します」

仕方ない…
とりあえず化粧室に行って、気持ちを切り替えて来よう
花沢類が日本に帰って来て早々、こんなに動揺してたらこの先、私の気持ちが花沢類にあるって道明寺に気づかれてしまう
ずっと隠し続けて来たのに…
花沢類から離れて、何の為に道明寺と一緒にいるのか忘れちゃいけない


戻って来たら牧野、また秘書の顔になっちゃうんだろうな、クスッ

「花沢様、秘書の方よりお預りしておりしたお車の鍵でございます」

ダミーの車が出てから、10分くらいか…

「ありがと。上手く連れて行ってくれてる?」
「はい、先程確認したところ、マスコミ関係者は先に出られたお車に全てついて行きましたので、ご安心下さい」
「色々とありがと」

これで牧野とゆっくりドライブ出来るかな
そう言えば昔の牧野は車に乗ると直ぐ寝ちゃってたけど、秘書バージョンの牧野は寝ないのかな?
まぁ~
どっちでもいいけどね
牧野が傍にいてくれるなら

「お待たせ致しました」
「じゃ、行こ」
「花沢支社長、手を繋がなくても歩けますので」

クククッ、やっぱり秘書モードに戻っちゃった

「俺は繋いで歩きたいけど、牧野が嫌ならいいよ、クスッ」

これからいくらでも時間があるから、少しずつね
それにしてもホント変わらないよね、牧野
一度決めたらなかなか曲げないトコ
長期戦かな、クスッ
出来ればお手柔らかにお願いしたいけど

「花沢支社長、ココに来た時とお車が違うようですが…それにマスコミもいないようですし」
「久しぶりに牧野とドライブだからね、邪魔されなくないから」
「随分と根回しがいいんですね」
「ククッ、牧野の為ならね。はい、乗って」


マスコミ対策といい、車の事といい、何もかも事前に準備してるなんて、昔の花沢類からは全然想像出来ないよ
昔は面倒な事は大嫌いだったし、フフッ、寝ることが一番好きだったのにね

フランスに行って変わったみたいね
NYにいても花沢類の噂は聞いていたから
この間だって道明寺と争って、花沢類のプロジェクトに決まったし
道明寺、すっごく悔しがってたけど、侮れない存在になったって言ってたな

花沢物産も世界規模で、花沢類も優秀だけど、やっぱり道明寺が何かを仕掛けたら…あたしの行動一つでどうなるか解らない
こうして花沢類といると、このまま傍に…ずっと一緒にいたいって思ってしまうけど、それは絶対に叶わない夢なんだよね

「牧野、どうしたの?さっきから真剣な顔して俺の事ジッと見て。どうせなら、もっと可愛い顔して見てくれると嬉しいんだけど、クスッ」

エッ!?
あたしったら、ずっと花沢類の事見てたんだ
やだ、恥ずかしい///

「す、すみません///」
「クククッ、昔とは言い方が変わったけど、牧野が謝るのは聞きあきたよ」

花沢類…
その言葉懐かしいね

「あの花沢支社長、何処に向かってるのですか?」

パーティー会場予定のホテルかな?
それとも花沢物産?
まさかこのまま家に送ってくれる訳ない…よね!?

「クスッ、家に帰りたい?でも牧野に渡したいものがあるから、それ受け取ってからね」

さっき貰った資料の他にも何かあるの?
しかも銀座なんかに!?

「牧野、着いたよ。行こ」

「花沢様、お待ちしておりました」
「出来てる?」
「はい、ご用意しております。こちらへどうぞ」

こんな高級なお店に何の用事なんだろう
でもさすがは花沢類だよね
従業員総出だし、この綺麗な人はオーナーかな?
しかもこんなお部屋に通されちゃって
ホントすっごいVIP待遇

「牧野様はこちらへお願い致します」

エッ!?
な、なにするの?

「あの…」
「パーティーに着るドレス作ったから、一応着てみて。サイズが合わないと直さなきゃいけないし。でもきっとピッタリだと思うけど」

あ、あたしのドレス!?
し、しかもサイズがピッタリって…
花沢類が何であたしのサイズ知ってんのよ///

「クククッ、牧野、早く着ておいで」
「エッ…あっ、はい…」

うわぁ~
すっごく素敵なドレス!
で、でも…
こんな高価な物、花沢類から貰えないよ

「牧野様、とても良くお似合いですね!」
「あ、ありがとうございます///」
「花沢様よりフランス店からご注文下さいまして、作らせて頂きましたが、さすがは花沢様ですね。とても素敵なデザインで、サイズも牧野様にピッタリ」

ホント図ったように丁度いい

「花沢様、ご覧になられますか?」

エッ!?
な、なんか恥ずかしいんだけど///

「パーティーまで楽しみにしてるから。オーナーの好みでドレスに似合うアクセサリーと靴もお願いしたいんだけど」

ま、待って!
そんなダメだよ

「あのそこまでして頂く訳には…」
「はい、畏まりました。牧野様、ドレスをお包み致しますので、着替えをお願い致します」

あっ…もう!