心の扉②-2


こんなあたしに、最後まで優しい言葉をかけてくれるなんて…

NYに来て五年
ずっと道明寺が傍にいてくれた
口は悪いし、俺様だけど、あたしを本当に大事に、心から思ってくれたのに
それでもどうしても花沢類が心の中から追い出せなかった

「一応、約束だからな。婚約指輪はお前に渡す」

「あ、あのね…」

「今、お前の心に誰がいるか解ってる…初恋の相手だからな、類は」

「…道明寺」

「色々引っかき回しちまったし、強引だったから、きっと俺様の事が好きだって錯覚したんだろう」

「錯覚だなんて…あたし…」

「ふん!でもな、この俺様が易々とお前を手放すと思うか?」

「ヘッ!?」

「まさかあのババァにチャンスを貰えるとは思わなかったが、NYにいる間、もう一度俺様を好きにさせてみせるからな。覚悟しておけ」

「ちょ、ちょっと道明寺…」

「それでも類が忘れられねぇ~なら、その時に指輪を返せばいい。それまではお前が持ってろ。いいな」

その指輪は今でもあたしが持っている
あたしの胸元に

自分の進む道を決めた時、道明寺と話をして約束通り指輪を返して、その時は素直に受け取ってくれたのに、道明寺らしいというか…

「人にやった物なんか受け取れるか。それに婚約指輪なんか返されても使い道がねぇ~からな」

そう言ってネックレスに作り替えてくれたんだよね
でもあまりにも大きなダイヤだから普段はつけられないんだけど

さぁ~てと
なかなか寝付けそうにもないから雑誌でも読んでようかな

昨日までホント忙しかったから体は疲れてるはずなのに、なかなか寝付けないなんて、あたしらしくない…

エッ!?

…本当…なの?

花沢類が…婚約?
婚約者と一緒に…日本へ帰って来る!?

ウソ…

…じゃないみたい

二人で写ってる写真もあるし

…このキャンパスの写真
花沢類らしい

非常階段でもよく本を読んでたよね
花沢類は本を読んで、あたしはその横で一人でしゃべってて、よく牧野が煩いから全然読めないって頭をクシャってされたっけ
フフフッ、天使の微笑み付きで

でも花沢類、寝てる事も多かったな
疲れるからって膝枕をして…

今はこの人がしてるんだろうね
四年越しの愛だもんね
連絡がないはずたよ
こんなキレイな人が傍にいるんだもん

あたし…

なんの為にNYにいたんだろう

花沢類の傍にいたくて必死に頑張ってきたのに
なんの意味もなくなっちゃった

花沢物産に入社して、仕事に慣れたら勇気を出して花沢類に連絡しようと思ってた
でも…もう絶対に出来ない
婚約者がいるんだから

五年前、空港で花沢類に気持ちを伝えていれば…

花沢類が好きだから、花沢類と一緒にいたいから、NYに、道明寺にきちんと気持ちを伝えに行くだけだって、すぐに日本へ戻って来るからって、あの時伝えていれば、花沢類は婚約しなかったのかな
あたし、花沢類と一緒にずっといられたのかな

多分…
ううん、結局はこうなる運命だったんだと思う

一般庶民のあたしが花沢類の傍にいられるはずない

それに今更だけど…

花沢類は…親友の彼女だから、道明寺に頼まれたからあたしに優しくしてくれただけ

あたしがNYに行ってから全然連絡をくれなくなったのは、あたしの事は何とも想っていないって事だから

でも…
それでも花沢類が好き
忘れる事なんか出来ない

だからこの想いに扉をかける

ほんの少しでも花沢類と繋がっていたいから
花沢物産という会社だけでも…