こんなあたしに、最後まで優しい言葉をかけてくれるなんて…
NYに来て五年
ずっと道明寺が傍にいてくれた
口は悪いし、俺様だけど、あたしを本当に大事に、心から思ってくれたのに
それでもどうしても花沢類が心の中から追い出せなかった
「一応、約束だからな。婚約指輪はお前に渡す」
「あ、あのね…」
「今、お前の心に誰がいるか解ってる…初恋の相手だからな、類は」
「…道明寺」
「色々引っかき回しちまったし、強引だったから、きっと俺様の事が好きだって錯覚したんだろう」
「錯覚だなんて…あたし…」
「ふん!でもな、この俺様が易々とお前を手放すと思うか?」
「ヘッ!?」
「まさかあのババァにチャンスを貰えるとは思わなかったが、NYにいる間、もう一度俺様を好きにさせてみせるからな。覚悟しておけ」
「ちょ、ちょっと道明寺…」
「それでも類が忘れられねぇ~なら、その時に指輪を返せばいい。それまではお前が持ってろ。いいな」
その指輪は今でもあたしが持っている
あたしの胸元に
自分の進む道を決めた時、道明寺と話をして約束通り指輪を返して、その時は素直に受け取ってくれたのに、道明寺らしいというか…
「人にやった物なんか受け取れるか。それに婚約指輪なんか返されても使い道がねぇ~からな」
そう言ってネックレスに作り替えてくれたんだよね
でもあまりにも大きなダイヤだから普段はつけられないんだけど
さぁ~てと
なかなか寝付けそうにもないから雑誌でも読んでようかな
昨日までホント忙しかったから体は疲れてるはずなのに、なかなか寝付けないなんて、あたしらしくない…
エッ!?
…本当…なの?
花沢類が…婚約?
婚約者と一緒に…日本へ帰って来る!?
ウソ…
…じゃないみたい
二人で写ってる写真もあるし
…このキャンパスの写真
花沢類らしい
非常階段でもよく本を読んでたよね
花沢類は本を読んで、あたしはその横で一人でしゃべってて、よく牧野が煩いから全然読めないって頭をクシャってされたっけ
フフフッ、天使の微笑み付きで
でも花沢類、寝てる事も多かったな
疲れるからって膝枕をして…
今はこの人がしてるんだろうね
四年越しの愛だもんね
連絡がないはずたよ
こんなキレイな人が傍にいるんだもん
あたし…
なんの為にNYにいたんだろう
花沢類の傍にいたくて必死に頑張ってきたのに
なんの意味もなくなっちゃった
花沢物産に入社して、仕事に慣れたら勇気を出して花沢類に連絡しようと思ってた
でも…もう絶対に出来ない
婚約者がいるんだから
五年前、空港で花沢類に気持ちを伝えていれば…
花沢類が好きだから、花沢類と一緒にいたいから、NYに、道明寺にきちんと気持ちを伝えに行くだけだって、すぐに日本へ戻って来るからって、あの時伝えていれば、花沢類は婚約しなかったのかな
あたし、花沢類と一緒にずっといられたのかな
多分…
ううん、結局はこうなる運命だったんだと思う
一般庶民のあたしが花沢類の傍にいられるはずない
それに今更だけど…
花沢類は…親友の彼女だから、道明寺に頼まれたからあたしに優しくしてくれただけ
あたしがNYに行ってから全然連絡をくれなくなったのは、あたしの事は何とも想っていないって事だから
でも…
それでも花沢類が好き
忘れる事なんか出来ない
だからこの想いに扉をかける
ほんの少しでも花沢類と繋がっていたいから
花沢物産という会社だけでも…