代償の果てに④-4


「牧野、ここ」

どうしたの?
固まってるけど

「は、花沢類…べ、別荘って、こんな大きい…」
「葉山の別荘はゲストを呼ぶことが多いからね。冬は殆ど使ってないし、クククッ、今日は誰もいないから安心して」
「うわぁ~すごい!全面ガラス張りで海がすっごくキレイに見える!さすが花沢類ん家の別荘だね」
「一階は全てゲスト用に出来てるから。牧野、こっち。二階に行こ」

多分…気に入るんじゃないかな、牧野
花沢家の所有している物件で、葉山のこの部屋だけが家庭的な感じがするから

「牧野、ここの部屋に食事用意してもらったから。はい、どうぞ」
「花沢類…ここ、全然雰囲気が違うんだけど。花沢邸にもこんなお部屋なかったよね?っていうか、必要ないよね、キッチンなんて」

そうだね、いつもシェフが作るのにわざわざ部屋にキッチンなんかいらないから

「母さんが料理が好きで、俺が小さい頃、ここに来ては作ってたらしい」

まったく覚えてないけどね

「花沢類のお母さんって、それなりの家柄の人なんじゃないの?」
「牧野風に言うと一般庶民。クククッ、牧野の家よりは裕福だけど。花沢の嫁が料理なんてって言われるから、父さんが母さんの為にここにだけ、内緒で作ったんだってさ」

今じゃ、全然来てないけどね
俺が心を閉ざしてからずっとフランスに住んでるから

「花沢類のご両親って、きっと大恋愛だっだんだね!すっごく羨ましい」
「牧野だって司と結婚すればそうなるでしょ。司、牧野の言う事なら何でも聞きそうだし。食べよ、牧野」
「う、うん…」

またその顔…
牧野、最近司の話をするといつもそうだよね
半年も放って置かれたら仕方ないか
まったく司は…
俺だったら絶対にあんな顔させないのに

「ねぇ~花沢類…」
「ん?」
「あのさ、今日は…道明寺の話はしないで…」

どうして?
話をすると寂しくなっちゃうから?

「えっと…ほら、今日は花沢類とせっかくデートしてるんだし、花沢類一色でって…な、何言ってんだろ、あたし…ハハハッ///」

クククッ、牧野がそうしたいんなら俺は別にいいけど

「じゃ~俺に染まるまで、今日は帰さないよ。覚悟しててね、牧野」
「なっ、花沢類ったら///」 
「あれ?そういう意味じゃないの、牧野、クククッ」


昼食の後、お散歩がてらにスーパーでお買い物

「キッチンがあるなら夜はあたしが作るね!」

クククッ、張り切っちゃって牧野ホント可愛い

「牧野、荷物持つよ」
「ありがとう!何かこうやってると、フフッ、ラブラブな新婚さんみたいだね」

ダメだ…

「牧野」
「なに?花沢…」

チュッ!

「は、花沢類!こ、こんなスーパーの出入口で///」
「だって牧野、可愛い事言うから。新婚さんみたいなんだから、これくらいしないとね」
「もう、花沢類は///」

今日だけじゃなくて、ずっとこうして一緒にいたい
ねぇ~牧野
昔みたいにもう一度、俺を見てくれる事はないの?
もう一度好きになる事は…

「花沢類、どうしたの?」
「牧野、俺も作るの手伝おうか」
「へッ?花沢類、料理できるの?」
「多分…やった事ないけど」
「フフッ、花沢類なら出来そうだよね!でも簡単なものしか作らないからのんびりしてていいよ」

昔、母さんも牧野みたいな珍しい物作ってたのかな
いつも自然と牧野のお弁当食べてたけど、もしかして懐かし思いがあって手を伸ばしてたのかも

「ねぇ~花沢類、これ持っていって」

なにこれ?
大きな鍋みたいなのに何が入ってるの

「見た事ない?あたしもまさか土鍋があるなんてビックリしたけど、きっと花沢類、小さい頃食べた事があるんだよ!はい、取ってあげる」

記憶はホントないけど…ん?
これ美味しい

「牧野、この丸いの美味しい」
「鶏肉の団子ね。フフフッ」

なに?牧野なんで笑ってるの

「俺、そんなに可笑しい?」
「ううん、違うの。昔、花沢類のお父さんもそうやって食べたのかなって」

そうかもしれないね

「俺と同じで珍しい物がいっぱいでビックリしたんじゃない?でもどれも美味しいけどね」
「フフッ、ありがと!」
「でもさ、この風景とこの料理って何か合わない気がする」
「ハハハッ、そうだね!こんなにキレイな海の夜景にお鍋なんてホント合わない!」

クククッ、何となく牧野らしい気もするけど

「ねぇ~花沢類…ずっと…ここでずっとこういう風に暮せたらいいのにね」
「牧野が暮したいんなら、そうしよっか」
「フフッ、そんなの無理だよね…あ、あたし片付けしなくっちゃ!終わったら紅茶入れるから」

本当に出来るなら、俺はそうしたいんだけど



もうこんな時間か…
何かあっという間だった気がする
このまま牧野と一緒にいたいけど

「牧野、もう遅いから帰ろっか」

ん?
どうしたの、まき…

「まだ…帰りたくない…」

牧野?

「…お願い…花沢類とまだ一緒に…いたいの」

牧野…
そんな涙を溜めた目で見られたら、俺…

「あっ…ん…んん」
「牧野がいたいっていうなら、俺はいつでも一緒にいるよ。でも知ってるでしょ、俺は牧野が好きだって…今日このまま一緒にいたら我慢出来なくなっちゃうでしょ」
「…しないで」

エッ…
まき…の?

「ずっと前から…道明寺がNYに行く前から、あたし…自分の気持ちに気づきたくなくて…気づかないフリをしてた」

牧野、それって…

「あたし…花沢類が好きなの…」

本当に?
俺が好きだって本当に言ってくれたの?

牧野、下向かないで
顔を見せて
すっごく嬉しいよ

「牧野、大好きだよ」


牧野の寝顔をこんなに近くで見れるなんて

「ん…はな……るい…」

ククッ、ホント可愛い
俺を感じながら何度も好きだって言ってくれる牧野が堪らなく可愛いくて
クククッ
ムリさせてごめんね

司の事は俺がきちんとするから安心しておやすみ、牧野


「花沢専務、社に到着致しました」
「ありがと」

思ったより早く帰って来たからあまり怒られずにすむかな

あの日の朝、目を覚ますと牧野は何処にもいなくて、胸騒ぎがしてアパートへ行ったら、やっぱり何もかもなかったんだよね