代償の果てに⑨-1


あの夜から2ヶ月か…

次の日の朝、起きたらもう花沢類はいなくて、何だかすっごく寂しくて…
夢だったんじゃないかって…

でも置き手紙が置いてあった

『牧野、おはよ。気持ちよさそうに寝てるから起こさずに行くね。目覚めたら牧野が隣にいてホント嬉しかった。ありがと、牧野。愛してるよ』

花沢類らしい優しい言葉

今考えると花沢類がいなくて良かったのかもしれない
起きて隣に花沢類がいたら、どんな顔したらいいか、どんな話をしたらいいのか、きっと解らなかったから

「牧野、なにボォ~としてんだ。早く行くぞ」
「あっ、はい」

いけない、仕事中だった
あの夜が最後だと決めていたのに、頭の中が花沢類でいっぱいで、いつもいつも考えてしまって…

それに…

あれから2ヶ月、花沢類からまったく連絡がない
あの日の翌日、フランスに行ったって聞いたけど、もうとっくに日本に戻って来てるのに…
嫌われちゃったのかな
それともただの気まぐれだったのかも…

はぁ~
何を考えてるんだか
もう花沢類とは関わらないって決めたのに、ホントあたしって…

おっつ!
道明寺の目が…
気をつけなくっちゃ
また変に勘ぐられたら大変だもんね

花沢類とあたしの婚約騒動で道明寺ったらすっごく機嫌が悪くって、ホント大変だったんだよね
まさか夜、一緒にいたんじゃないよなって、しつこく聞いてくるし
そんなとこだけ勘がいいんだから、ホント感心するよ

でもたった1日で婚約騒動が沈静化しちゃったんだけどね
婚約騒動の翌日に、今度は道明寺と滋さんの結婚式の日取りが正式に決まって、マスコミも社内の人達もみんな話題がそっちに変わったから

まぁ~道明寺財閥と大河原財閥の結婚となれば騒がないわけないよね
しかも披露宴は盛大にするけど、結婚式はごく身近な人だけで場所も極秘にしてるから騒動に拍車をかけているし

このビックカップルにあやかりたいって要望が多くて、マスコミが式場探しに必死らしい
フフッ、マスコミも大変だよね
二人とも海外にあっちこっち行ってるから、世界中調べなくちゃならなくて
でも別に極秘でしなくてもいいのになって思うんだけど

いいなぁ~滋さん
好きな人と結婚出来るなんて
あたしも花沢類と結婚出来たら…


チッ!
牧野のヤツ、あの類のパーティー以来、気がつけばボォ~としてやがる
仕事に関してはさすがにキッチリこなしてるが気にいらねぇ~な

「牧野」
「あっ、はい」

フン!
またボォ~としてやがったな

「いつまでしてんだ」
「し、支社長、何をですか?」

とぼけやがって
んなモノいつまでも着けてるから、いつも類の事ばかり考えるんだろうが

「確か借りただけだって言ってたよな。何でまだ持ってるんだ、その指輪」
「ゆ、指輪ですか?え~と…か、返そうと思ってたんですが、あの日は…あ、あれから花沢支社長にお会い出来ませんでしたので…」

フン!
本当は貰ったクセに誤魔化しやがって

あの日、類が素直に邸に帰るはずはねぇ~
一応、類を乗せているらしい車が花沢邸に戻ったとは聞いているが、きっとダミーだろ
おそらく牧野がいるホテルに類も泊まったに違いない

「別に着けてなくてもいいだろうが」
「そ、そうなんですが…い、家に置いておくのも心配ですし…そ、それに着けていればなくす事はないので」

フッ、まぁ~いい
着けていたければしてろ

「フン、でもまぁ~丁度いいんじゃねぇ~か、男除けで」
「丁度いいって…」
「明日から1ヶ月間、ばばぁ~のとこだとよ」

最終段階って事だな
まぁ~牧野なら大丈夫だろ

「NYですか…解りました」

せっかく類が日本にいるのに残念だったな、牧野

「社に戻ったら牧野は家に帰れ」
「はい…」

俺様も最後の詰めだ
ここで失敗するわけいかねぇ~からな


「よぉ!」
「いつも忙しそうだな、類」

また来たの

「あんた達は暇そうだね」
「せっかく来てやったのに、睨むなよ、類」

当たり前でしょ
牧野に会える時間が取れそうになると、いつもタイミングよく来るなんてワザとしか思えないからね

「もう終わるだろ、飲みに行こうぜ」
「行かない」

あれから2ヶ月
牧野に全然会ってない
声さえも聞いてない

フランスでトラブルがあって、牧野との余韻に浸れる暇なくフランスに飛んで行き、ようやく日本に帰って来たら、今度は司
道明寺財閥が色々ちょっかい出して来るから思った以上に振り回されて
しかも時間が出来るといつもあんた達が来るからね
悪いけど今日は絶対に牧野に会うから

「おいおい、類、即答かよ」
「司も来るから、来ねぇ~と煩いぜ」

ふ~ん
司も来るんだ

「あっ、もしかしたら牧野も一緒に来るかもな」

クククッ、あきら、必死だね
牧野が来るかもなんて言って、そんなに司に会わせたいの?
司が牧野を連れてくるわけないでしょ

「どうせ牧野に会いに行くつもりだったんだろうから丁度いいんじゃね?」

総二郎まで、クスッ
仕方ないから行ってあげるよ
司、俺と話したいみたいだからさ

「行く」

司の結婚式まで後1ヶ月
どんな手を使ってくるかなって思ってたけど、まさか直接だとはね
俺も司に聞きたい事があったから丁度良かったよ