代償の果てに②-3


「うん、そうみたいだね。さっき招待客リストを再確認してたら名前があったから」
「さっそく調べたのか。まだ類の事が忘れられねぇ~みたいだな」
「そうじゃなくて、仕事なんだから誰が来るかきちんと把握しないといけないでしょ。あたしの上司は顔や名前も覚えられないおバカな人なんだから」
「んな事ねぇ~だろ!まぁ~確かにちびっとは牧野に頼る事はあるけどな」

良かった…話が逸れて
今日は花沢類の話をすると、仮面が外れてしまいそうだから

「おっと、悪りぃ、これから会社に戻んなきゃいけねぇ~んだわ。いっぱい余っちまったな、向こうで食うからお弁当にしてくんね?」
「うん、いいけど…今日はそんなにスケジュール入れてなかったはずだけど?」
「昼間、バハァに頼まれた事があってな。まったくこき使いやがって」
「そうなんだ、じゃ~すぐに詰めるから」

昼間か…
きっと滋さんの事かな

婚約して5年
道明寺が日本に帰って来て、おそらく結婚が本格的になるんだろう
あたしは…

「牧野、なにボォ~としてんだ?」
「あっ、ごめん。はい、これ。明日の事があるからあまり無理しないようにね」
「あぁ、じゃ~行くわ」
「うん」

ねぇ~道明寺
いつになったら、あたしを許してくれるの?
あたしが…花沢類を忘れるまで?
もう今さら、花沢類の元へは戻れないのに…


『今日は婚約者、例の秘書と伴ってご登場らしいぜ』
『情報によると、婚約者は道明寺邸、司氏は秘書と住んでるらしいな』

ふ~ん、そうなんだ
たった1日で調べるなんて、やっぱりマスコミってすごいね
クククッ
でも記事に出来なくて、残念だったね

「お~い、類」
「あきら、三条も」
「お久しぶりです、花沢さん。フランスから帰国されたんですね」
「うん、でもすぐに帰っちゃうけどね」

今回は牧野を確認しにきただけだから
居場所さえわかれば、いつでもね

「よぉ!」
「おう、総二郎」
「牧野、すっげぇ~噂になってるぜ。ホントなのか、司と住んでるって」
「おそらくな。調べてはみたんだけど、牧野が住んでるマンション、道明寺財閥所有だからな間取りすら解らなかったぜ」
「あぁ~例の超セキュリティばっちりの所か」
「花沢さん…噂が本当だとしたら…」
「類、それでも本当にいいのか?」
「何か問題でもある?だって牧野は牧野でしょ」

牧野が司を選んで、幸せならそれでいいと思ってた
でもこんな状態で、牧野が幸せなはずはない

「でもよ、そう簡単にはいかないんじゃね?」

クククッ
そうだね、司
牧野を手放したくなくて、こんな状態にしてるんだから

「おいおい類、なに呑気な顔してんだよ」
「まったく相変わらずだよな、類は」
「別にいいでしょ」

花沢さんもただフランスに行っていた訳じゃない
ヨーロッパでは『花沢の後継者はかなりの切れ者』だと噂されている

おそらく、すぐにフランスへ帰るのもこの間、道明寺財閥と争った商談の為
ヨーロッパでは、道明寺財閥すら花沢さんがいるから、なかなか手が出せない状態になっている


「そういや~さっき類の親父さん見かけたけど」
「元は父さんに招待状が来たからね。今回は俺が無理言って出席させてもらったから」

司が例の秘書と帰国するって聞いて、来ない訳ないでしょ

「そろそろ始まるんじゃねぇ~か?桜子、大河原の事頼んだぞ」
「えぇ」

もし本当に、先輩と道明寺さんがそういう関係なら、あの滋さんが、冷静でいられるはずがないと思うんだけれど…
先輩がいなくなって、先輩と同様、滋さんとも連絡が取れなくなった

「おっ、司の登場か…やっぱり隣は大河原だよな」
「牧野はどこいんだ?」

始まる前から忙しそうだね、牧野
いつになったら、その群れから脱出出来るの?
昨日とは全然態度違うし

「おい、類どうした?牧野見つけたけど当分近づけそうにねぇ~な」
「あっちに行ってる」
「って、類!挨拶廻りしなくてもいいのかよ」
「花沢社長がやるんじゃない?じゃ~ね」

花沢さんって、ホント先輩の事になると感情が出ますね
昨日、公に先輩が現れたから、取り入ろうと次から次へと挨拶に来て、きっと他の人と笑って談笑してる先輩を見たくないでしょうね

「しっかし牧野すげぇ~よな。自分が廻らなくても人が集まって来てよ」
「NYの噂では一から道明寺楓が育て上げた秘書らしいですから。しかもあの年齢で東京支社長の秘書。当たり前なんじゃないですか」

道明寺さんが婚約、結婚したとしても、ずっと傍にいられるポジションですよね
でも先輩が望んだとは、思えないですけど…