心の扉⑥-1


ピピピッ ピピピッ

『なに、総二郎』
『相変わらず無愛想だよな、類は』

別にいいでしょ
今更愛想良くしなきゃいけない相手じゃないんだし

『着いたの?』
『あぁ、今着いた。類はちゃんと来るんだろうな』

まったく
さっきあきらからも電話が来たし、俺ってそんなに信用されてないのかね

『後ちょっとで着くけど』
『じゃ~ロビーにいるから…あれ?』
『なに?』
『いや…何でもない。じゃ~ロビーで待ってるから後でな』

あきらと総二郎にもパーティーまで会うつもりはなかったけど、今更どうにもならないから
今、牧野が目の前にいたとしてもね

「支社長、到着致しました」
「ん」

クククッ、あきらんトコはホント表向きクリーンな会社に見えるよね
強面の人がウロウロしてる事もないし
来客も女の人…ま、牧野?

「類!」

まさかこんなトコに牧野がいるはず…

「おい、どうしたんだ」
「別に…総二郎、久しぶり。なんかこの会社に着物姿って合わないんだけど」
「チッ、仕方ねぇ~だろ。午前中、講演があって着替えてる暇がなかったんだから。これでも結構、忙しいんだぜ」

俺達と違って総二郎は高校の時から…ん?中学の時からかな、忙しかったもんね
まぁ~茶道の家元の跡取りじゃ仕方ないか

「あきらも忙しそうだよね。会社で昼食なんてさ」
「類だってそうだろ。Jrも楽じゃねぇ~よな」

クスッ、たしかにね

「わざわざ来てもらって悪かったな。重要な連絡が入るから会社を出られなくてさ」

そっか、オークションがあるんだっけ 
今回はあっち系って事か

「携帯に連絡もらえばいいんじゃね?」
「総二郎はまっとうな社会にいるからな。携帯だと盗聴されるだろ」

総二郎の世界じゃ、そんな事気にする必要はないからね
派閥の内輪もめとかはありそうだけど

「あぁ、なんだそういう事か。あきらを見てると、そっち系とは結びつかなくってな。家もメルヘンだし、あきらの母親も可愛い系だから忘れてたぜ」
「まぁ~誰も想像出来ないんじゃね?この俺の容姿じゃね」

クククッ、あきらも総二郎も相変わらずだね

「あきら、お腹空いた」
「チッ、まったく類は変わらずマイペースだな。プライベートルームに用意してあるから行こうぜ」

会社にプライベートルーム?
ふ~ん、あきらってそんなに仕事熱心だったんだ

「あきらって会社で寝泊まりする程忙しいの?」
「今回みたいな仕事の時だけな」
「おっ!昼からすっげぇ~豪華じゃん」
「類とは久しぶりだろ。それに一応、支社長就任と婚約のお祝いを兼ねてメープルから取り寄せたんだ」

あきららしいね
そうやって気を使うとこ

「別に祝う事でもないけど」
「照れんなよ。四年越しの愛なんだろ。まったく連絡よこさねぇ~と思ったら類が恋愛で忙しかったなんてな」
「あの類が恋愛なんてホントお兄さん達は嬉しいぜ」
「見合いだけど」
「「はぁ?」」

二人共ジュニアなんだから記事がデタラメな事くらい解らないかな
それに俺が牧野以外に恋愛?
ありえないでしょ

「どっちも与えられた事をこなしてるだけだから」
「なんだ、喜んで損したぜ。でもまぁ~類らしいけどな」
「そういや~司は来るのか、パーティーに」
「まったく司もNYに行ったっきり一度も連絡よこさねぇ~からな」

司も?
まぁ~道明寺財閥の跡取りじゃ仕方ないかもね

「リストには載ってたけど」
「んじゃ~きっと牧野と一緒だろうな。あいつら、いい加減結婚すりゃ~いいのに。類に先越されるんじゃね?」

クククッ、かもね

「もしかすっと未だに司の母ちゃんが邪魔してたりな。あっ、そういえばさっきロビーで牧野にそっくりな人いたな。類と電話してたから確かめなかったけど」
「美作商事にか?ありえねぇ~だろ」

確かにありえないけど

「俺も見た」
「だろ?そっくりだったよな」
「後ろ姿だったから」
「見間違えじゃね?司より先に帰国したんなら連絡してくるだろ。それにここまで来て何も言わずに帰るなんてありえねぇ~し」

そういえば会社でも牧野に似た人がいたっけ
クククッ、あの時も後ろ姿だったけどね

「類は相変わらず牧野の話になると嬉しそうだよな」
「そう?」
「まぁ~牧野が類よりあきらに先に会いに来るなんてありえねぇ~から見間違いだろうな」
「そうだね、クスッ」
「チッ!ひどい言い草だよな。俺だって牧野には色々してやったんだぜ」

あきらには悪いけど、どう考えてもあきらより俺が先だと思うけどね
帰国してたらの話だけど