月の恋の行方②


「つくしの手料理ってホント美味しいよねぇ~私、つくしと暮らしたい!」

滋おばさん
食事する度に、同じ事言ってるんだけど…

「そういえば翔、バイオリンジュニアコンクールで5位になったんだって?おめでとう」
「そうなのよ、類君!翔ったら、成長したと思わない?」

へぇ~
翔、すごいじゃん!
ククッ
そういえば、月の気を引くために始めたんだよね、バイオリン
僕がバイオリンを弾いてる姿を、月がキラキラお目めで見てて、俺様もって

「でもさぁ~やっぱり陸君には叶わないわよねぇ~ヨーロッパジュニアで1位でしょ。月ちゃんだってこの間のピアノ1位だったしね。コンクールが夏休みだったから一緒に見に行ったんだけど、ホント素晴らしかったもの」

ガチャン!

「あっ…ご、ごめんなさい」
「月、どうした?今日は月の大好きなママの手料理なのに全然食べてないよ」

ククッ
翔が目の前にいて、緊張して食べれないとか
それとも胸がいっぱいとか

「そ、そんな事ないよ!お話を聞いてて手が止まっちゃっただけ…月、バイオリンの音色って好きだから、翔君が入賞したコンクール見に行きたかったな!」

ねぇ~月、お願いだからあまり話さないでくれる?
そんなんじゃ、直ぐパパにバレちゃうよ

「月、食べ終わったら弾いてやるよ!陸、お前のバイオリン貸せ!」
「本当に!じゃ~早く食べちゃおうね」


翔達が来た日以来、月のため息の数が少なくなった
僕が見た限りでは
あの日、特に翔とは何にもなかったけど…
会えただけでも、嬉しかったって事かな?

でも今日はまた、ソワソワして落ち着かない
あれから3ヶ月…
また会いたくなったって事?

「月、陸、今日はパパとママ、早目に帰って来るから外で食事するよ」
「ホントに!?嬉しい!」

僕も嬉しいけど…
でも珍しいよね
いつもは早く帰って来ると、ママの手料理じゃなきゃ嫌だって言うパパが外食なんて…


「ねぇ~パパ、今日はホントどうしたの?すごい料理にケーキまで!」
「ん~今日はお祝いだからね」

お祝い?
誰かの誕生日でもないし、特に何もないけど

「牧野月子さん、準グランプリおめでと」
「えっ!?なんでパパが…」

だ、誰?
牧野月子って…

「ライバル会社の企画だからね、きちんとチェックはしてるよ」

パパ、一体なんの話?
全然意味解らないんだけど
ってママもじゃん

「ねぇ~類、一体なんの話なの?」
「ククッ、月から説明する?それともパパから?」

バツが悪そうに、月が説明した
洋服のデザインのお手伝いをしている内に、自分もやってみたかった事
ある日本の会社が

『子供が描く自分で着てみたい服コンテスト』

っていう企画をするって日本にいる友達から聞いて、デザイン画を応募した事
それが最終審査まで通って今日、準グランプリを取ったって

「ねぇ~パパ、なんで牧野月子が月って解ったの?」
「最終審査に残った人のリストを見て、何となく目に止まったから。デザイン画を見て、月って確信したよ。でも何で本名で出さなかったの?パパのライバル会社だったから?」
「ううん…日本の会社だったから本名だとすぐ解っちゃうでしょ。…パパとか関係なく、自分を試してみたくて…だからみんなに内緒で応募したの」

ふ~ん
でも別に本名だって良かったんじゃない?
実力がなきゃ、いくら花沢物産の娘でも勝ち残れないと思うし

「ククッ、やっと解ったよ、月」

本当にパパは…
ママも僕も、また全然意味解らないよ

「陸、お前もここ何ヵ月、月を観察してたから解ったんじゃない、月のため息の理由」

ため息の理由って…
翔の事じゃないの?

「ククッ、陸が考えてるのと多分違うと思うよ。月、誰かから花沢物産の力を使ってとか言われなかった?時期からするとピアノのコンクール辺りかな」
「パパ…」

翔達も見に来たピアノのコンクールで、1位になった時

『花沢物産の娘じゃ~1位になって当然だよな』
『金持ちはいいよな、金で順位を買えるんだから』

って言われたらしい
ため息も、パパの顔をじっと見ていたのも、本当はパパが…って思ってしまったからだって

じゃ~
翔はまったく関係なし!?
ん?でも…

「月、前に翔達と撮った写真を見て、ため息ついてたのは何だったの?」

あっ!
マズイ…パパの顔が

「あ~アレは、そのコンクールの時、道明寺財閥まで使ったら太刀打ち出来ないよなって言われて、翔君家も?って考えてたから」
「じゃ~翔の事は…」
「えっ?翔君がどうしたの?」

まったく関係ないって事か…翔の事は
ククッ
パパったら笑顔復活

「月、これだけは言っておくよ。パパは卑怯な事は絶対にしないよ」
「うん!」


この数ヶ月間の、月観察は一体なんだったんだろう
でもさすがにパパ、瞬時に見抜くなんて、やっぱりパパには適わない
まぁ~月に笑顔が戻ったから、今回はそれでいいけどね