代償の果てに④-2


道明寺の事は田中さんに任せて、あたしが会議に出席した
お昼返上で書類をまとめ、道明寺の机にわざと叩きつけてあげた
道明寺、何か叫んでいたけど、かまっている暇なんてない
道明寺のせいで余計な仕事が増えたばっかりに、もう楓社長につく時間に…

まったく、もう!
慌てて社長室に入る

「牧野、明日から私とNYに行ってもらいます。予定は二週間。支社長の事は田中に任せてありますから、牧野は今日、私の仕事が終わり次第、帰社して準備するように」
「はい」

もしかして…この事で道明寺、機嫌が悪かったワケ?
たかが二週間、あたしがいないだけで、そんな不機嫌にならなくてもいいんじゃない?
まったく道明寺は…

プルルル

おっと、仕事、仕事!

『はい、社長室です…はい…はい、お通しして下さい』

「社長、花沢社長が一階ロビーにお見えになりました」

朝からバタバタしてて、忘れてた…でも緊張する事はないよね
あたしはただの秘書の一人でしかないんだから
いつも通りにしていれば…

花沢社長を出迎える為に、急いでエレベーターホールに向う
おっと、ギリギリセーフ!

「花沢社長、お待ちしておりました。こちらへどうぞ」

花沢類と同じ、やわらかい印象で優しそうだけど、やっぱり大会社の社長だけあって威厳がある

コンコン

「花沢社長がお見えになりました」

社長室に案内をし、あたしは給湯室へ
西田さんから、花沢社長は紅茶がお好きだと伺っている

フフッ、花沢類と一緒
ミルクティーってトコも
花沢類ってお父さんにソックリだよね、飲み物も雰囲気も
でも一番似てるのが…あの瞳だね

「失礼致します。どうぞ」
「あぁ、ありがとう。楓さん、こちらの方が楓さん自ら育てたっていう秘書の方かな?あなたが育てたっていうだけで、相当な評判だったが、噂によるとかなり優秀らしいね。たしか、牧野つくしさんだったかな」

ヘッ!?
な、なんであたしの名前を…

「えぇ、まだまだ花沢社長に紹介出来るまでには至りませんが、牧野、ご挨拶を」

エッ!?
たかが秘書のあたしがわざわざ挨拶なんて…
それだけ楓社長から教えて頂いているという事が凄い事なんだろう

「牧野つくしと申します。まだまだ未熟者ですが、道明寺司の秘書をさせて頂いております。今後とも宜しくお願い致します」
「あぁ、宜しく頼むよ。しかし司君が羨ましいな、婚約者がいて、しかもこんな可愛らしい人が秘書だとは。類とはまったく正反対だ。あいつはいくら見合いの話をしても断り、秘書はすべて男、女っけがまるでないからな」

花沢類が…お見合い
当たり前だよね…
御曹司なんだもん、いつかは道明寺のように結婚しちゃうんだよね

「ご子息は今度、花沢物産の日本支社長になられるんですから、これからですわ、花沢社長」

エッ!?
花沢類が日本に帰って来るの?
し、しかも支社長って…

「だといいんだがな。就任パーティーのパートナーさえ、そんなのいらないと、まったく困った奴だ」
「そう簡単にはいかないんじゃなくて、花沢社長。大きなパーティーですから、ご子息のパートナーとなると、その後の事がありますから」

イコール、婚約者…結婚
そうだよね
公に連れて出れば、そういう事になるよね

エッ!?
な、なに?
花沢社長…何であたしを見てるの?

「楓さん、お願いがあるんだが…牧野さんをその日、類のパートナーにお借り出来ないだろうか?牧野さんなら安心してお任せ出来る」

はぁ!?
な、何をおっしゃって…

「無難かもしれませんわね。牧野も出席させる予定でしたから、私から司に話しておきますわ」

ちょ、ちょっと勝手に…
はぁ~
そりゃ~あたしは社長命令なら仕方ないけど、でもやっとこの間の騒動が収まってきたのに、また…
そ、それだし花沢類に何も聞かないで大丈夫なの?
だってパートナーはいらないって言ってたんじゃ…

「すまんね、楓さん。牧野さん、悪いがお願い出来るかな?」

はぁ~
たかが秘書のあたしが断れるワケがないじゃない
しかも…そのビー玉の目で頼まれちゃ~

…ダメだ

「私で良ければ、光栄でございます。宜しくお願い致します」

はぁ~何でこうなるんだろ
出来るだけ、花沢類とは関わらないようにしたかったのに…
でももしかすると花沢類が断ってくるかもしれない
大事なパーティーなんだもん
あたしなんかじゃ、きっと役不足だろうしね



花沢社長が帰られた後も、バタバタと休む事なく、頭と体がフル活動

何かNYにいた時よりキツイかも…
NYでは学校に通いながら仕事をしてたけど、学校に行けば息抜きする時間があったからね

「牧野さん、今日はこれで上がって下さい。明日はプライベートジェットでNYに向かいます。マンションへ車を回しますので」
「はい」

はぁ~
やっと今日一日が終わった…
朝から道明寺に振り回され、花沢社長がお見えになり緊張して、ホントに疲れたぁ~

「後、牧野さん…お疲れのところ申し訳ありませんが、今日中にこれに目を通しておいて下さい。明日からの楓社長のスケジュールと資料です」

に、西田さんって…
こんな…
こんな鬼のような性格だとは思わなかったよ!
はぁ~今日は寝られないかもしれない…

「はい…解りました」

と、取り敢えず、支社長室に戻って片付けて、さっさと帰ろう
どうか道明寺がいませんように…

よし!
いない…ってそうか
今日は夜、会食の予定が入ってたっけ

「あっ、牧野さん!」

いつもより早く終わったから、まだ残ってる人がいるだ…というより、あたしがNYに行くから残業させちゃってるのかも

「ごめんなさい、あたしのせいで仕事が大変になって…」
「いいえ、私に能力がなくて残業になってしまってるだけですから、気にしないで下さい。それより先程、牧野さん宛にお電話があり、伝言を頼まれまして…こちらです」
「ありがとう」

伝言って…誰からだろう

  ………………………

   花沢物産
   花沢専務様より
 
   例の件、宜しく
   楽しみにしてる

  ………………………

は、花沢類…

「花沢専務、クスクス笑いながら、とても楽しそうでしたよ」
「ハハハッ…そ、そう」

まったく花沢類ったら…
わざわざこんな伝言残さなくたって…もう!