代償の果てに④-1


「「よぉ!」」

つ~か、牧野いねぇ~じゃん
まさか俺らが来るって解ってて、逃げたんじゃねぇ~よな

「牧野、司の秘書やってんだよな?どこいんだ?」

フン
やっぱり俺様より牧野か

「牧野はいねぇ~よ、ババァのトコだ!まったくお前ら随分と暇人だな。俺様はクソ忙しいっていうのに呑気に来やがって!」
「おいおい司、来て早々青筋たてんなよ。そもそも牧野が時間作ってくれたんだぜ」

まぁ~無理やりだけどな

「なに勝手に牧野と連絡取ってんだ、あきら」

つ~か、牧野はダチたんだから別に怒る事もねぇ~だろ
とは言っても、司は何度かけても電話に出ねぇ~し
もちろん、牧野のプライベート携帯は繋がらねぇ~し

「会社にかけたんだよ。司と連絡取りたいって言ったらたまたま牧野に繋がっただけだろ」

相変わらず、あの口調だったけどな

「フン、余計な事すんじゃねぇ~よ」
「司、あんな記事が出てイライラすんのも解るけどよ、当たる相手が違うんじゃね?」

おっ、総二郎
早くもいい突っ込みだよ

「うるせ~!お前ら、なんで類見送りに行かなかったんだよ」

当然来てると思って、牧野を行かせたのに
チッ

「行ったぜ」

一応な
邪魔しなくて良かったぜ
類の作戦が台無しになるからな

「あ?じゃ~なんであんな写真取られてんだよ」

お前らの前で抱きついて、キスしたってんじゃ~ねぇ~だろうが!

「つ~かよ、そんな事より司、ホントは牧野とどうなってんだ?五年間連絡も寄越さず、現れたと思ったらあんな噂だろ。司、大河原と結婚すんだよな?」

あきら
結婚、結婚って、滋みてぇ~だな

「あぁ、ババァと滋で話進めてんじゃねぇ~か。その内お前らのトコに招待状が届くだろ」
「おいおい司、牧野はどうすんだよ」

フッ
牧野の事はこうなる前から決めてるぜ
ただまだ少し問題があるけどな

「牧野は俺様の秘書に変わりはねぇ~」
「なぁ~司、お前と牧野の噂は知ってるよな?大河原と結婚した後もそのままって訳にいかねぇ~だろ」

フン
不倫ばかりしてる奴に言われたかねぇ~な

「類のせいでそんな噂も消えんじゃねぇ~か」

牧野とはキスどころか、手を繋いでいる所すら撮られてねぇ~し
ただの噂でしかねぇ~からな
フッ、俺様の言う通り、住んでいるマンションの部屋以外は全て完璧に仕事モードに切り替えてるしな、牧野は

「類がこんな状態、放って置くわけねぇ~だろ」

そうだな、総次郎
だがな
そんな事、想定内だ
フン!
俺様もまさかキスするとは思わなかったけどな

「類、本気だぜ。五年前、牧野がいなくなってからもずっと牧野を想ってきたんだ。牧野の居場所が解ってましてやこんな状態の牧野を放って置くはずねぇ~よ。日本に帰って来たら本気で奪いに来るぜ」

そうだろうな
フランスに戻る前に、俺様に宣戦布告していきやがったからな

「あきら、総次郎、んな事解ってる。でもな、俺様も本気だぜ」

コンコン

「お寛ぎのところ申し訳ございません。支社長、次の来客がロビーにお着きでございます」
「あぁ、解った。お前ら悪りぃ~な、行くわ」
「「司…」」

フッ、田中
いいタイミングで助かったぜ
あいつらしつけぇ~からな


ホントあっという間に地獄の日々…
いやいや修行の日々が残すこと後一日
まぁ~楓社長がNYに戻られても、忙しい事には変わりはないんだけどね

あれから西門さん逹から連絡はない
正直ホッとしてる
こう何もかも一辺にあっちゃ~あたしも耐えられないからね

「牧野さん、今日の社長のスケジュールが届いてますよ」
「あっ、はい、ありがとうございます、田中さん」

さぁ~てと今日の楓社長のスケジュールは…
エッ!?
来客予定に…花沢物産社長
っていう事は、花沢類のお父さん…

お互いに世界規模の会社だから、当たり前なんだろうけど…
花沢類のお父さんが、あたしなんか知ってるはずはないんだから
フフッ、別に緊張する事もないか

「牧野さん、変わりましたね」
「エッ!?」
「あっ、突然にすみません。NYにいた頃は冷たい印象でクールに仕事をこなす秘書というイメージだったのですが、日本に帰ってからは顔の表情が柔らかくなったっていうか、穏やかになった感じがしまして」

たしかにNYにいた時は、何も解らなくて、不安で余裕もなく、いつだって仮面をつけていたから…
やっぱり住み慣れた日本に帰って来て、ホッとしちゃったのかな

「すみません、これからはキチンと引き締めます」
「いいえ、違うんですよ。私としては今の牧野さんの方がいいと思います。現に牧野さん、まだ日本に帰って来て数日しかだっていないのに社内で人気者ですよ」

に、人気者!?
あたしが?
ただ毎日、いっぱいいっぱいで仕事をこなしてるだけなのに!?

「そんな持上げても仕事は減りませんよ、田中さん。フフッ、今日もお願いしたい事は山のようにあるんですから」
「ハハハッ、それは勘弁して頂きたいところですが、やらなきゃ仕事は減りませんしそれでは始めますか」
「はい」

田中さん、気を使ってくれたのかな
花沢物産社長の文字を見て、一瞬顔が強張ってしまったから

何だか今日は、朝から道明寺の機嫌が悪くて、ホント嫌んなっちゃう
来客だっていうのに、なかなか動いてくれないし、やっと会ってくれたと思ったら、挨拶だけして殆ど話をしてくれない
あまりにも無言状態が続くから、相手があたしを救いの目で見て…
結局、殆どあたしが対応する羽目に…

会議もそう
不機嫌モード全開の顔して会議室に入ったもんだから、みんな嫌な緊張を強いられて
また更に、発言してる人を睨み付けるから、みんな、しどろもどろになっちゃうし
終いには

「まともに話も出来ねぇ~んじゃ、会議にもなんねぇ~な。後で言いたい事を書類にして持って来い!時間の無駄だ」

なんて言って、勝手に出て行っちゃうし…
あのさ、そもそも
あんたがそんな態度してるからいけないんじゃない!
ホントに一体、なんだっつ~の!