心の扉⑥-2


やっぱり思ってた通り、美作さんに会わなかったな
花沢類に最初に伝えたかったから、正直ホッとした
もし会ってたとしたら誤魔化しようがなかったからね、花沢物産にいる事

「只今戻りました」

ん?
話し声が聞こえる
オークションの打合せのお客様かな

「昨日はありがとう。でも徹さんにはもう一つ大切な役目があるからね」

徹さん?
あ~川島部長って川島徹っていうんだっけ

「解ってるよ」

で、でも名前なんかで呼んじゃうって事は…も、もしや!?
どうしよう
戻ったら直ぐ渡すように言われてたけど、何だか入りづらいな
で、でも仕方ない…

「それにしてもスレ違いばかりで何だかつまらないわ」
「そうか?」
「えぇ。パーティーの前にでも」

コンコン

「牧野です。オークションの資料をお持ち致しました」
「どうぞ。随分早かったね。紹介するよ、こちらは僕の秘書の」
「フフフッ、牧野つくしさんよね」

エッ?
あっ…花沢類の婚約者の人

「なんだ、みずき知ってたのか」
「えぇ。昨日、川島常務にお会いした時に紹介して頂いたの」

昨日に引き続き、今日も会うなんて…
しかも今朝は花沢類といるとこ見たばかりなのに

「それじゃ~改めて紹介する必要はないね。牧野さんもここに座って」
「はい…」

はぁ~
何であたしも座らなきゃいけないんだろ
仕事が溜まってるのに

「ねぇ~徹さん、秘書の方って選べたりするのかしら」
「ん~場合にもよるけど、何でそんな事聞くんだ?もしかして支社長の秘書に何か問題でもあるのか?」

そういえば花沢類の秘書ってどんな人なんだろ
秘書室で一度も会った事がないな
花沢類の事だから何だか大変そう

「違うの、徹さんの事よ。フフッ、もちろん今回は選んだのよね」
「あぁ、牧野さんは優秀な人材なんだから当たり前だろ。大変だったんだよ、競争率が激しくて」

川島部長があたしを選んだの?
人事部が決めるんじゃないんだ

「あら、私はてっきり好みで決めたんだと思ってたわ。だって徹さんの好きなタイプよね?」

ヘッ?
な、何を突然に///

「なっ、何を言い出すんだ。そんな理由で決める訳ないだろ」

そ、そうよ
そんなのありえないっつ~の!

「フフッ、そういう事にしておくわ。でもつくしさんで良かった。私、絶対につくしさんとは仲良くなれる気がするの」

エッ!?
つくしさん?

「あの…結城様」
「結城様だなんて堅苦しいわ。徹さんは私の幼なじみだし、つくしさんは徹さんを通じて知り合えたお友達。だからこれからはみずきって呼んでね」

確か以前にも似たような事を滋さんに言われたっけ
しかも婚約者っていうシチュエーションまで一緒で…
まぁ~今は滋さんとは友達になれて良かったって思ってるけどね
でも今回は…
出来るならもの凄く避けたい状況なんだけどな

「まったくみずきは自分勝手だな」
「だって私、ほとんどフランスにいたから日本に友達がいないんだもの」

だからってあたしじゃなくても…

「みずき、お前の立場を考えてみろよ。牧野さん、困ってるだろ」
「あっ、いいえ、そんな事は…あの私で良ければ喜んで…」

はぁ~
言っちゃったよ
何であたしってこうなんだろ

「本当に?ありがとう、つくしさん!」

滋さんだったらここでスペシャルハグなんだろうな

「牧野さん、悪いね。みずきの我が儘に付き合ってくれて」
「いいえ。私の方こそ、え~とみずきさんとお友達になれるなんて光栄な事なので」

まぁ~友達になったって、そう会える人じゃないからね
なんせ支社長の婚約者なんだから
ん?
でも今朝みたいにマンションで会う可能性があるのか…

「また光栄だなんて、つくしさんったら堅苦しい事言って」

でも…

うん、大丈夫、大丈夫!
同じ所に住んでたって、毎日会う訳じゃないんだし
悪い方にばかり考えてたらダメよね 

「仕方ないだろ。みすぎは牧野さんの上司の婚約者なんだから。ね、牧野さん」 

これからはポジティブに考えよう
今日だって会わないって思ってたら、実際に美作さんに会わなかったし 

「牧野さん?」
「エッ?あっ…す、すみません。あの…どんなお話をしていたのでしょうか」

いけない
部長のお部屋にいるのをすっかり忘れてた

「フフフッ、つくしさんったら」
「本当にすみません。え~と、あの…し、仕事の事を考えてまして」
「あっ、そうか。ただでさえ忙しいのに、今日は美作商事に行ってもらった上に、ここで話に付き合っていたら仕事が終わらなくなるか」

ようやく気がついてくれたんだ、川島部長

「あっ、はい…あの、今日中に終わらせなくてはならない仕事があるので、そろそろ私は失礼してもよろしいでしょうか?」
「つくしさん、忙しいのにごめんなさい。また今度、お食事でも一緒にしましょう」

そんな機会はない事を願ってるけど…

「はい。あの、川島部長。パーティーの件で打ち合わせをしたいのですが、今日お時間を頂けますか?」
「ん~それじゃ、夕食を食べながらでいいかな。もちろんご馳走するから」
「いいえ、昨日もご馳走になって、そういう訳には…」

今日の川島部長のスケジュールって確か余裕があったはずだけど

「これからこの我が儘な支社長の婚約者殿に付き合って外出しなきゃならないから時間が取れないんだ。そうだな、7時に待ち合わせしよう。場所は後でメールするから」
「はい、畏まりました。それでは、失礼致します」

いいのかな、連日奢ってもらっちゃて
まぁ~部長はセレブだし別にいいか
フフッ、連日美味しいものが食べられるなんてラッキーだよね

おっと!
もうこんな時間だ
美作商事に行ってた時間と今の話してた時間合わせて1時間半か
何とか取り戻さないと7時に間に合わなくなっちゃう