心の扉④-1


「今日は正面入口に車回して」
「はい、畏まりました。何か受付に用事でも…」
「別に」

いつものように地下駐車場からなら誰に会うことなく入れて、煩わしくないのに、ただ何となくね

たまにはいいでしょ
もしかしたら誰も気がつかないかもしれないし

「花沢支社長!おはようございます」
「キャ~!花沢支社長よ」

うるさい
やっぱり地下から入れば良かった

「すみません!そのエレベーター待って!乗りま~す」

牧野の…声…のはず…

…どのエレベーターに?

「あっ、支社長どちらに」

あの黒髪のストレートロング

牧野…

「し、支社長?」
「…いや、何でもない」

クククッ、身体は正直なのかも
似てる声を聞いただけで探しちゃうなんてさ
しかも後ろ姿だけで牧野だと思うなんて
牧野がココにいるなんて絶対にあり得ないのにね

「あっ、支社長、結城様とお待ち合わせだったのですね」

何言ってるの
そんなって…昨日は夜で、今日は朝
随分暇なんだね、この人

「おはようございます」
「おはよ。今日はどうしたの、こんな朝早くから」
「今日は川島常務とお約束してまして。うふふ、でも類さんにお会い出来るなんて嬉しいわ」

ふ~ん、川島常務とね
そういえば結城家とは常務絡みの友人だったっけ

「類さん、今日の夜のご予定は?」
「秘書に聞いて」
「えぇ。もし予定がなければ、夕食の時間は私にお付き合いして下さいね。それでは」

もちろん予定が入ってると思うけど、重要な会食じゃない限り、調整するだろうね
目の前であんな言い方されたらね


「ちょっと牧野さん!朝から仲良く川島部長と出勤したって本当なの?」

エッ!?
なんで知ってるの
でも別に仲良くでは…

「受付から聞いたんだから隠しても無駄よ」
「もしかして、まさかあなた…」

まさかって…何?

「牧野さん、あなた…川島部長とお付き合いしてるなんて事…」

あ、あたしと川島部長がお付き合い!?

「ダメよ、ダメ!そんなの絶対に認めないわ」
「そうよ!そうよ!」

ダメだって言われる以前に、そんなのあり得ないっつ~の!

「あ、あの…会社の近くで偶然会っただけで、皆さんの想像しているような事は決してありませんのでご安心下さい」

はぁ~参った
朝のミーティングが質問タイムになっちゃって
川島部長ってホント人気者だよね
あたしが川島部長の秘書になった時もかなり羨ましいがられたし
まぁ~解らないでもないけど

30歳、独身
容姿、性格バッチリ
もちろんセレブで学歴も申し分ない
そしてお父様は花沢物産の川島常務

普通の人なら騒がないわけないか…

「…野さん。牧野さん?」

ヘッ!?
うわぁ!いけない

「す、すみません!ボォ~としてしまって…あの、何か」
「牧野さんにずっと見つめられるのは凄く嬉しいね」

ヤダ…あたしずっと見てたんだ
恥ずかしい///

「あ、あの、いえ…川島部長は本当に人気があるのだと今朝実感しまして」
「そう?花沢支社長の方が断然人気があると思うけど。牧野さんはどう?支社長みたいな人は」

は、花沢類みたいな人って、何でいきなり…

「花沢…支社長は婚約者がいらっしゃるし、それにいつもムスッとしているので…川島部長が社内で一番人気だと思います」

う、上手く誤魔化せたかな!?

「ハハハッ、ムスッとしてるか!うん、確かにそうかも。でもよく知ってるね。会った事あるの?」

やっぱり…
花沢類の事だからきっとそうかなって

「何度か…社内でかお見かけしたくらいです」
「ふ~ん、そうなんだ。あっ、そういえば悪いけど、川島常務にこの書類を届けてくれるかな。個人的な書類だから直接渡して欲しいんだけど」
「はい」

これから先もこうやって花沢類の話が出る
普通でいられるように、普通に応えられるようにならなきゃいけない