代償の果てに⑦-3


チッ!
ちょっと類を困らせてやろうとしたら、反対にこっちが大変になっちまった
類のヤツ、昔はいつも寝てばかりいたくせに、ホント恐い存在になっちまったぜ

こんな時間か…大分遅くなっちまったな

「司、おそ~い!もうとっくに始まってるよ」
「悪り~な」
「最初に類君に挨拶に行く?でもなかなか近づけないかもよ、ほらあそこ」

今日の主役じゃ、仕方ねぇ~けどな

フン、随分と仲がいいじゃねぇ~か
牧野…
お前、仮面つけてねぇ~な

「やぁ~司君、大河原さん、忙しいのによく来てくれたね」
「こちらこそ、お招き頂き有難うございます」

チッ!
牧野のヤツ、最高の笑顔を見せやがって

「司君、悪かったね。大切な秘書をお借りして」
「いいえ…」
「仕事が出来て、あんなに素敵な笑顔を見せる秘書は手放したくないだろうね、司君。ククッ」

牧野がNYに来てからは、あんな笑顔は一度も見た事はなかった
類が隣にいるとやっぱり違うのか…

「牧野の笑顔は久しぶりに見ました。仕事中は笑ったりしませんので」
「ククッ、確かにそうだな。仕事中の牧野さんもだが、今日は一段と綺麗だとは思わないかい、司君」

認めたくねぇ~が、牧野の心の中にいる類の存在が、どんどん牧野を綺麗にしていったんだろう

「えぇ…」
「類君、とっても嬉しそう!天使の微笑み炸裂って感じ」

類のヤツ、今日は最高の気分なんだろうな、フン!

「あんな素敵なお嬢さんと婚約したとマスコミに騒がれては、やはり嬉しいんだろうな、類も」

あ?
婚約だと!

「まさか…」
「ククッ、勝手にマスコミが騒いでるだけだが、私も挨拶する度におめでとうって言われて困ってるよ」

チッ、類のヤツ!


司、やっと来たんだ
クククッ、ご苦労様

「牧野、疲れてない?少し休憩しよっか」
「私なら大丈夫。知っている方が多いから、結構楽かも」

でもね、司が来たから少し休んだ方がいいでしょ
司、スゴイ目で睨んでるしね

「俺が疲れたから、やっぱり少し休も」
「あっ、うん」

ねぇ~牧野
今日はパーティーが始まってから、しゃべり方や表情が昔の牧野に戻ってるんだけど…

「花沢類、どうしたの?」

その言い方も…

「牧野がすっごく可愛いから、みんなの前だけど、抱きしめようか迷ってた、クスッ」
「そ、そんな事したら、余計に大騒ぎになるでしょうが!」

ホントだね
今日は散々、婚約おめでとうなんて言われて、何とか誤魔化して来たのにね

「クククッ、じゃ~頬にキスはダメ?」
「ダ、ダメに決まってるでしょ!は、花沢類、早く休憩しよ」

慌てちゃって、ホント可愛いんだから

「あい」

さて、どうしようかな
司、さっきのやり取りも恐い顔でずっと見てたし、婚約騒動も耳に入ってるだろうから
まぁ~高校生じゃないんだし、もう暴れたりはしないと思うけどね、クスッ

それにしても嬉しそうにお菓子まで摘んじゃって、随分と余裕だね、牧野

まさかと思うけど…

「牧野、唇にクッキーがついてる、クスッ。休憩が終わったら、まずは司に挨拶しに行こ」
「エッ!?ど、道明寺、来てるの?」

やっぱりね
ククッ、ホント牧野らしいよ



パーティーが始まる直前、楓社長に急な仕事が入ったから道明寺は来れないって聞いてたのに…

いつ来たんだろう
休憩に入る時?
それとも…
どうしよう
あたし今日…仮面被ってない

「ま~きの」

花沢類…
あたし、どうしたら

「クスッ、大事なクッキー落としたよ。もったいないでしょ」

あっ、ヤダ
ここのクッキー美味しいのに、ホントもったいない…ってそんな事考えてる場合じゃないでしょ
まったくあたしは…

「花沢類…道明寺が来てるっていつから知ってたの?」
「15分位前かな。司が会場に入って来た時にね。ククッ、全然気がつかなかったみたいだね、牧野」

15分位前って…
ダ、ダメだ…
完全に見られてる

「今日は急な仕事が入ったから来れないって聞いてたから、全然気にしてなくて…」
「俺が牧野をエスコートするのに、あの司が来ない訳ないんじゃない?」

そうだよね
花沢類に関しては過剰反応するから、道明寺は
仕事そっちのけで来るとは思わないけど、何が何でも来そうな気がする

普通に考えれば、予測できたのに…
仮面をつけずに花沢類といられるって、それだけで頭がいっぱいになっちゃったから
今さらだけど、道明寺が来たんなら、やっぱりつけなきゃいけないね、仮面…

「牧野、口紅落ちてるから直しておいで。クスッ、さっき言ったのに、ほらまだついてるよ、唇にクッキー」

チュッ!

な、何してるの、花沢類!

「ククッ、早く行っておいで。みんな待ってるからさ」

もう!
花沢類は…

「直ぐ戻ります」
「牧野」

ん?

「何も心配しなくていいよ。俺を信じて」

エッ?
花沢類…

「だからこのまま、いつもの牧野でいてね」