心の扉④-2


コンコン

「失礼致します。川島部長より書類を届けに参りました」
「はい、常務は来客中なので、私がお預かりしますね」

どうしよう
直接渡して欲しいって言われてるんだけど

ガシャ

あっ、丁度良かった
出てきたみたい

「楽しみにしてるよ。就任パーティーでな」
「はい、それでは失礼致します」

就任パーティー?
…この人
あの雑誌に載っていた人
花沢類の婚約者…

「牧野さん、来ていたのか。みずきさん、紹介するよ。こちらは息子の秘書をしてる牧野つくしさんだ。牧野さん、知っているとは思うが花沢支社長の婚約者の結城みずきさんだ。息子の幼なじみだから顔を合わせる事もあるだろう。宜しく頼むよ」

やっぱり花沢類の…
川島部長の幼なじみでもあるんだ

「牧野です。これから宜しくお願い致します」
「こちらこそ宜しくお願い致します。おじ様、とても可愛らしい方ですね」
「ハハハッ、そうだな」

そんな笑わなくたって
お世辞だって事くらい解ってるつ~の
もうサッサと書類を渡して戻ろう

「…川島常務、部長よりこちらの書類を直接お渡しするようにと」
「そうか、ありがとう」
「それでは失礼致します」

早くこの場から離れたい
もう限界だから…
まさか…
花沢類の婚約者に会うなんて思ってもみなかった

とってもキレイな人だった
雑誌で見た時も思ってたけど、やっぱり花沢類にはこういう人がお似合いなんだって

どうしよう…涙がとまらない
心の中がザワザワして、苦しくって…
解っていたのに
ちゃんと気持ちに扉をかけていたのに

いつまで…
いつまで続くのかな
こんな…こんな辛い想い

花沢類…苦しいよ



「牧野さん、どうしたの?今日は牧野さんらしくないっていうか、朝はボォ~としてたかと思えば、今は丸っきり元気がない」
「そ、そうですか?少し疲れが出てしまったのかも…すみません」
「いやいや、謝る事ないよ。仕事はきっちり、いつも以上出来てるからね」

だって何かに集中していないといられないから…

花沢類が婚約した
それは頭でちゃんと理解してる
でも日本へ戻って来てから、未だに花沢類に会っていないせいか、どこか現実味がなかったんだと思う
実際に婚約者と紹介されて、その人を目の前で見て、こんなに動揺してしまうんだから

「牧野さんは何が食べたい?」
「エッ?」
「ハハハッ、これは本当に重症だね。よし、今日はもうこれで切り上げて、少し早いけど夕食に行くよ」

切り上げて夕食!?
し、仕事中なのに…

「部長、まだ退社時間にもなっていませんが…」
「大丈夫だよ。適当に理由をつけて直帰にしておくから。牧野さんにお願いする事もあるし、それに食べてないよね、お昼。さぁ~行こう」

お昼を食べていない事まで気がついていてたんだ
はぁ~
上司に気を使わせてしまうなんて…
これが楓社長だったら…
うわぁ~
想像するだけでも恐ろしい

あ~もう!
こんなのあたしらしくない!

自分で選んだ道なのに、最初の一歩でつまずいちゃうなんて
まだまだ序の口なんだから、雑草パワーで頑張らないと!

フフッ
きっとバチが当たったんだよね
あんなに想ってくれた道明寺よ
り花沢類を選んだから