あれから殆ど眠れなかった
もうすぐ花沢類が来る
最後だから…
今日だけは何もかも忘れて、花沢類と一緒にいたい
コンコン
気持ちを切り替えて
よし!
「牧野、おはよ」
「おはよ、花沢類!朝苦手なのによく起きれたね」
フフッ
まだ眠そうな顔
「牧野からデートのお誘いなんて激レアだからね」
デ、デートって///
ま、まぁ~
そんな感じなのかな///
チュッ!
ヘッ!?
は、花沢類???
い、今…唇に…
「キキキ…キス!?は、花沢類///」
「ククッ、だって牧野、可愛いから。デートなんだし別にいいでしょ。ほら、時間が勿体ないよ、行こ」
そ、そうだよね、たった1日しかないんだから勿体ないよね
…って、誤魔化された気がするんだけど
ヘッ!?
あっ…ちょっと待ったぁ~!
「花沢類、もしやあそこに見えるのは…」
「俺の車。早く乗って」
い、いや…
だって花沢類、あなたの運転は一度乗ってもう懲り懲りなんですけど…
「だってあの時は免許取って初めて運転したから」
「あっ、もしやまたやっちゃった!?ハハハッ…」
「クククッ、安心して。あれからよくドライブとか行って少しは上達したから」
ホ、ホントかな
だって免許すら必要のないお坊ちゃんなのに、教習所に通って
プッ!
これこそ激レア
しかも免許が取れたっていうのも奇跡近い気がする
「ねぇ~牧野、さっきから酷くない?」
「ハハハッ…ごめん。で、出来るだけお手柔らかにお願いします!」
「あい」
花沢類といられるなら、行き先はどこでもよかった
あたしの家でも傍にいられるのなら
「牧野、海見に行こ。葉山に別荘があるから」
「うん!」
そう、この海が…
花沢類と過ごした、葉山の夜が…
あたしにとって一生忘れられない大切な思い出に…
プルルル プルルル
ピッ
『はい、牧野です』
『今からそっちに向かう』
『はい…』
道明寺が来る
思い出に浸っている場合じゃない
はぁ~
花沢類に会えて、声が聞けて、少しナーバスになってるのかな
今日…
まさか花沢類がいるとは思わなかった
フランスで、花沢類が手掛けたプロジェクトが始まったばかりだと聞いていたから
空港に到着してすぐ、花沢類の顔が見えて
たしかに…
道明寺が言うように、一瞬動揺してしまった…
NYでは一切仕事中に、感情が表に出る事はなかったのに
ガシャ
「牧野!」
い、いやだ…まったく!
いくら指紋認識で入れるからって、いきなり入って来なくたって、もう!
「お帰りなさい、道明寺。あのさ、一応ピンポンくらい鳴らしてから入ってくれない?」
「あぁ?入れるんだから別にいいだろ。んな面倒くせ~ことしてられっかよ」
まったく、道明寺は…ホント俺様なんだから
「んな事より早くメシ食おうぜ」
「はいはい」
プライベートと仕事は別
プライベートの時は今まで通り普通に話し、自然にする事
これはNYに行って、道明寺に言われた約束の一つ
「久しぶりじゃねぇ~か、牧野のビンボー食」
「そうだね、道明寺が日本に戻るのに色々忙しかったもんね」
「やっぱこのじゃが肉うめ~な!」
つ~かさ
いつになったら日本語が上手くなるのよ
お願いだから、もう少し成長してもらわないと
一応、東京支社長なんだからさ
「なに一人でブツブツ言ってんだ?お前も早く食えよ」
「あっ、うん…あ、あのさ道明寺…」
「あぁ?」
「し、滋さん…元気だった?」
「あぁ、いつもと変わらねぇ~な。つ~かよ、いつもいつも滋の事ばかり気にしてんじゃねぇ~よ」
「うん…」
あたしがNYに行ってから、滋さんとは殆ど会っていない
道明寺が婚約者同伴のパーティーに出る時に会う程度で、会話もなく挨拶するだけ…
でも当たり前だよね、あたしと道明寺の関係…
世間には愛人なんて言われてて、滋さんが快く思っているはずはないんだから…
「なぁ~牧野、明日は楽しみだな」
「エッ?何が?」
「フッ、惚けてんじゃねぇ~よ。明日のパーティー、類も来るんだよな」
プライベートの時は自然に…でも道明寺から花沢類の話が出る度に、あたしは仮面を被らなきゃいけない…