代償の果てに⑨-3


ど、どうしよう…
楓社長は悪いようにはしないっておっしゃって下さったけど、自分の事なんだから…

でも…

はぁ~
これからどうしたらいいの

「…野さん、牧野さん?」
「あっ、は、はい!」

や、やだ、もう会社に戻ってたんだ
楓社長から道明寺の結婚式が終わるまでは普段通りにしてるようにって言われてたのに、ホントいけない

「ぼぉ~として大丈夫ですか?」
「す、すみません…あのなんでしょうか?」
「花沢社長がお見えになったので、お茶をお願い出来ますか?」

は、花沢社長!?

あっ…

そ、そういえば一緒に結婚式に行くんだったけ
道明寺所有の島で結婚式をするからってあたしも一週間前に初めて知ったんだけど
しかも一度も東京に戻らずに…

「はい、直ぐにお持ち致します」

はぁ~
でもなんでよりもよって…
出来れば会いたくなかったな

コンコン

「失礼致します」
「やぁ~、牧野さん、類のパーティー以来だね。あの時は君のお陰で大盛況だったよ…ん?どうしたんだい、元気がないようだが」
「そ、そんな事はないです!いつでも私は元気です、はい!」

ヤダ、業とらしかったかな
普通に、普通にしなきゃ

うわぁ~
か、楓社長が睨んでる…

はぁ~

「それなら良いんだが。ハハハッ、楓さん、こき使いすぎなんじゃないかい?」
「これくらいで根を上げるようなら、この先やっていけませんわ」
「ハハハッ、楓さんらしいね」
「明後日は丁度いい休養になるんじゃないかしら」
「そうだな、クスッ」

道明寺の結婚式が休養になるなんて…
絶対ありえないっつ~の!

「牧野、この書類を処理したら、明日の準備をなさい」
「は、はい、畏まりました。それでは、失礼致します」

はぁ~
た、助かった

これからの事、色々考えなくちゃいけないんだけど、まずは道明寺の結婚式を無事終わらせてから…

気持ちは決めてる
誰にも知られないように…
特に道明寺には

…もちろん花沢類にも

そう、これはあたしだけの問題だから
でもどう考えても私一人では無理
やっぱり楓社長にお願いするしかないかもしれない


ん~気持ちいい!
南の島でも夜はちょっと肌寒いんだな

ふぅ~
でもやっとリラックス出来たよ
なんせプライベートジェットがまるで会社のようだったから
楓社長も花沢社長も、あたしもだけど、書類とパソコンのにらめっこで…
大企業の社長は休みを取るのもホント大変なんだよね

うわぁ~
ホント懐かしいな
高校生の時に道明寺に連れて来られたんだよね

あっ
確かあの辺りだっけ
花沢類を抱きしめたのは、フフフッ
あの時の気持ちのままずっと花沢類を好きでいたら、こんな風にはなっていなかったのにな…
まぁ~今更そんな事言っても仕方がないか

それにしても、この島、大分変わったなぁ~

ホテルみたいな建物ってホテルそのものなんだけど、出来ちゃったし、教会も…
もしかして結婚式を挙げるのにわざわざ教会を建てちゃったとか!?
フフフッ、あり得るな、道明寺と滋さんなら
結婚式が終わったらこの島、一般解放でもするのかな
こんなキレイな島、殆ど誰も来ないなんてもったいないし、あのカップルにあやかりたいって人達も沢山いるだろうから、いいかもね

ん~
それにしても静かだなぁ~
波の音しか聞こえない

結婚式の前夜ってこんなものかな
もっとバタバタしてるのかなって思ったんけど…
そういえば、夜にこの島に着いたせいか、誰にも会ってないけど、みんなはドコに泊まってるのかな?
もちろん道明寺と滋さんは別荘だよね
ということは他のみんなも…

花沢類も…

沢山お部屋あるからみんなで別荘にいるのかもしれない
私だけホテルか…
仕方がないんだけど、なんだか寂しいな

会いたいな…花沢類

「類、何やってんだ」
「牧野見てた」
「解ってんだろうな」
「ん。ただ牧野が…」
「あ?」
「何でもない。あれ!?なんで司、青筋たててるの?」
「チッ!つまんねぇ~事思い出しちまったからな」
「クククッ、俺と牧野の愛引き?」
「ふん!余計な事言ってねぇ~で戻って飲むぞ」
「あい」


毎度毎度の事だけど、どんな状況でもこんなによく眠れるなんて、ホントあたしってすごいよね
まぁ~だから今までやってこれたのかもしれないけど、フフッ

滋さんはちゃんと眠れたかな

お祭りコンビが一緒で朝まで飲み明かしたな~んて事はまさかないよね
さすがに結婚式前夜だもんね

でも…クスッ
滋さんならそれでも元気いっぱいで大丈夫な気がするけどね
ちょっと心配だけど、式が始まるまでは部屋にいるようにって今朝、念をおされちゃったから、様子を見に行く事も出来ないし

う~ん
ここからじゃ教会も全く見えないし

はぁ~

結局、滋さんに何一つしてあげられなかったな
そればかりか滋さんには嫌な思いばかりさせてしまって…
ホントはあたしなんか来て欲しくなかったんだろうな
今まで何もしてあげられなかった分、せめて今日は邪魔にならないように、目立たないようにしなきゃね

出来るだけ、みんなから離れた場所にいよう
特に花沢類からは…

仮面が剥がれないように気をしっかり持たないと

コンコン

「結婚式の準備が整いましたので教会の方へお越し下さい」
「はい」

道明寺と滋さんの幸せな顔を見届けて、そして花沢類…会うのはこれできっと最後

またあたしはみんなの前から姿を消す
こうするしか方法はない…

花沢類、ごめんね
そしてありがと
あたしはあなたに出会えて本当に良かった



ギギィ…バタン

やだ、もうみんな来てたんだ
え~と
この辺りなら目立たないかな
花沢類がよく見えるし、結構いいかも

ふ~ん、でもホント親しい人しか呼んでなかったんだ
花沢類のお父様がいるのに、西門さんや美作さんのお父様は来てない
花沢社長とはこれから特に仕事の絡みが多いから呼んだのかな

フフフッ
道明寺ったらウロウロして全く落ち着きがない
天下の道明寺でも自分の結婚式だと緊張するんだね
後もう少しで始まるのに
あらら、楓社長に睨まれてるし

え~と、花沢類は…
後ろ姿しか見えないのは、仕方ないけど、ちょっとでもいいから振り向いてくれないかな

お願い…振り向いて

エッ!?
やだ、ホントに振り向くなんて…

花沢類…

たった三ヶ月なのに…
会いたくて、花沢類に会いたくて、もの凄く長く感じた

ん!?
あ、あれ!?
でも…
花沢類…ど、どこ見てるの!?

や、やだ…
滋さんが入って来たんだ

うわぁ~
すっごくキレイ!

道明寺ったらものすごく満足な顔してる
フフッ、でもホントお似合いの二人
まるで映画のワンシーンのようだね
こんなステキな教会で、指輪の交換、そして誓いのキス…
そして滋さんの幸せいっぱいの笑顔

本当におめでとう、滋さん


「どうなさったんですか?」

ヘッ!?
し、神父様…

「もう皆さん、外へ行かれましたよ」

ホ、ホントだ…
やだ、もう誰もいない

「ハハハッ、すみません。ステキな式だったので、つい余韻に浸ってしまって…」
「あなたもあの二人のように幸せになれるよう、花嫁のブーケを受け取れるといいですね。急がないともうすぐ始まりますよ」
「あっ、はい」

ブーケか…

後ろから見てて、独身の女性って桜子くらいしかいなかった気がする
もちろんあたしは除外だから、桜子に直接渡すのかな
フフフッ、下手に投げて、男の人が受け取ったら困っちゃうもんね

「何をしていたんです?もしかして具合が悪いのですか?」

か、楓社長…

「い、いいえ、大丈夫です!すみません、教会の中でちょっとボォ~としてしまって…ハハハッ」
「早くいらっしゃい。あなたが来るのを皆待っているんですから」
「は、はい…」

はぁ~
呆れた顔されちゃった

でも別にあたしなんか待ってなくてもいいのに…
どうせブーケは受け取れないんだから関係ないし
それとも式に参列した人が全員揃わないとブーケトス出来ないしきたりがあるとか?

フフフッ、まさかね

「つくし!」

ヘッ!?

「次はつくしの番だよ!」

し、滋さん!?

どうしちゃったの?
それにあたしの番って…

「落とさないでよ、は~い、つくし」

や、やだ…
受け取っちゃったよ、ブーケ

「つくしさん、一緒にいらっしゃい」

はい!?

か、楓社長、どうしちゃったんですか?
つくしさんって…名前でなんか呼んじゃって