大切な物 前編①


牧野の英徳高校卒業式

卒業証書を大事に抱え

「パパとママ、進に無事卒業できた事を報告しなきゃ」

と向日葵のような笑顔を残し、プロムに出る事無く牧野は姿を消した…

2年後…

英徳大学に通いながら花沢物産の仕事を徐々に始め、道明寺財閥と花沢物産の合同プロジェクト会議に出席する為、俺は今NYに降り立った
花沢の迎えの車に乗り込もうとすると、道明寺財閥の車が滑り込み、まるで拉致られるかのように乗せられた
そして車が走り出すと、司の秘書の田中という男が話かけて来た

「花沢様、驚かせてしまい大変申し訳ございません」

俺は何も応えず、不機嫌な顔のまま秘書を見た

「司様より花沢様がNYに着き次第、どこにお寄りする事無くお連れするように申し付かりました」
「はぁ~ 相変わらす俺様…田中さんでしたっけ?あなたも大変ですね、気にしなくてもいいですよ」

と言うと秘書の田中さんはホッとし苦笑いをしていた
目を窓の外に向け牧野を思い出す
使用人に対しても必ず、挨拶・お礼・気遣いを欠かさなかった牧野
それを傍で見てきた口下手の俺も、いつしか牧野を見習うようになって自然と言葉が出る
あぁ、そうそう、人の名前を覚える事もね

車が止まり、秘書の田中さんがすばやくドアを開けてくれ降りると俺は、道明寺NY本社ビルを見上げた

「いつ来ても偉そうなビル…司みたい」

と呟いた

「ぶっ」

その言葉に秘書の田中さんが噴出したが、すぐに

「失礼致しました。ご案内致します」

と重役専用エレベーターに乗り、司のオフィスに向かった

コンコン

「花沢様をお連れ致しました」
「どうぞ」

司のオフィスに入るように促されると、また自然と秘書の田中さんに対し

「ありがとう」

と言葉が出る

「類!久しぶりだな!」
「司、俺様すぎ」
「俺様が会議の前に類と話せるようにクソ忙しいのにわざわざ時間を空けたんだ。直ぐに会いに来るのは当然だろう」
「…」
「まぁ~取り合えず座ろうぜ」

と秘書にコーヒーを持ってくるように言い、ソファーに座った
司はタバコに火をつけ、煙をはくと

「あれから2年か…類、お前の方は何か分かったか?」

と寂しそうな顔で聞いてきた

「ううん…2年前から何一つ変らない」

道明寺財閥の力を使っても、依然として牧野に関して何の情報も掴めないでいる

2年前のあの日から…