代償の果てに③-1


「る…類君、久しぶり!司から聞いてるよぉ~バリバリ仕事してるって!この間、道明寺財閥も類君にケチョンケチョンにやられたみたいだしね」
「司は?」
「ん~どこ行ったんだろ?どうせ頭のハゲたおじさん連中に捕まってるんだと思うけど」
「クククッ、牧野といるんじゃない?」

花沢さん、いきなり直球ですか
早く聞きたいっていうのは解りますけど…

「そうかもね!つくしとは会った?」
「うん、さっきね」
「つくし、すっごく綺麗になったでしょ?女の滋ちゃんでも惚れちゃうくらい」

なんかとっても不自然な気がする…
花沢さんが来た時は、少し動揺したみたいだけど
世間では愛人と呼ばれている先輩を平気な顔して誉めるなんて
まだ動揺してくれた方が、自然に見える…

「先輩、忙しそうで遠目でしか見てないんですよね」
「桜子、まだちゃんと会ってないんだ。え~と…あっ、いたいた!待ってて連れてくるから」

シナリオ…

そう、なんだか滋さん
最初からシナリオ通りに話して、動いているみたいに見える

「噂はウソなんじゃね?変わんねぇ~じゃん、大河原」
「そうだよな、牧野が司の愛人ならあんな普通に牧野の話なんて出来ねぇ~だろ。変わっちまったのは牧野だけなんじゃねぇ~か」

だから変なんじゃない?
大河原だって、まったく連絡が取れなかったんだから
何かを知ってて普通にしてる
今も色々聞かれる前に、わざと逃げたのかもね

「二人とも忘れてませんか、滋さんも五年間連絡が取れなかったんですよ。普通にしている方が変じゃありません?」

クククッ
さすがは三条、同じ読みだね

「ごめ~ん、つくし忙しくて無理みたい。私も司が探してるから行くね」

やっぱりね、クククッ
まぁ~別にいいけど
どうせ問い詰めても、あんた話しそうにないしね

「あっ、滋さん。せっかく日本に帰って来たんですから今度遊びに行ってもいいですか?」
「うん!来る時、マン…え~と道明寺邸に連絡頂戴!じゃ~ね」

ふ~ん、でもまさかね
クククッ
司がそんな趣味があるなんて思えないし

「今、滋さん…マンションって言いかけませんでした?」
「おいおい、仲良く三人で暮らしてるなんて事、あり得ねぇ~だろ」
「そうですけど…先輩だけ違う階に住んでるとかならあり得るんじゃないですか?」

それはないんじゃない?
最上階だけ、専用エレベーターがあって、二人が乗り込むのをマスコミがどうやってか、嗅ぎ付けたんだから
非常階段で下の階に降りるっていう事は、出来そうだけど
でもだったら初めから普通のエレベーターに乗ればいいし、わざわざスキャンダルになる事はしないでしょ

「でもよ、マスコミが大河原は邸に住んでるって言ってるんだから、そのマンションで大河原は見かけなかったって事だろ。マスコミだってずっと見張ってるんだからよ」

一日や二日じゃ、やっぱり解らないか
明日からフランスに帰らなきゃいけないし、まずは日本に早く戻れるようにしないとね

「帰る」
「はぁ!?なに言ってんだ、類。まだパーティー終わらないぜ」

だって牧野と話せないし、いても仕方ないでしょ

「明日の準備があるから、じゃ~ね」
「おい、類!」


あっ…
花沢類、帰っちゃうんだ…
明日からフランスに行っちゃうんだよね
せっかく会えたのに…

はっ!

いけない…そんな事考えちゃ
もうどうする事も出来ないんだから

でも…
やっぱりあたしは、あなたを忘れる事なんて出来ないよ
だからお願い、花沢類
もうあんな事しないで
あたしはあなたと過ごした思い出があれば、やっていけるから…

「牧野、なにボォ~としてんだ?もうそろそろ終わりにするぞ」
「はい」

これからも、あたしはずっと道明寺を支えていく
花沢類
あなたを想いながら…


パーティーは色々な人達のお陰で無事終了した
帰り際、楓社長からまだまだ努力不足だと言われてしまった
確かに知識だけあっても、実際に瞬時に対応出来なければ意味がない

でも…もしかすると気づいていたのかもしれない
あたしが花沢類を目で追っていた事を…

「牧野、帰るぞ」
「はい」

ホテルの地下駐車場から、道明寺と滋さん、そしてあたしがリムジンに乗り、道明寺邸へ向かう
道のりはそう遠くはないけど、とっても長く感じる…

パーティーの時、滋さんから昔のように話し掛けられて、すっごくビックリした
もしかしたら、滋さんと仲が良かったあの頃に戻れるんじゃないかって…
今のこの状態を見ると、ただの錯覚だったって解るけど…

道明寺は書類の束に目を通し、滋さんは窓の外をずっと見ている
一言も口を聞かぬまま、道明寺邸に到着した